雨の匂いを形作る三つ目の要素は「ゲオスミン」です。

ゲオスミンは土の中に住むストレプトマイセス菌が作り出す、土の香りのもとになる物質です。

ほんのわずかな量でも独特の土っぽい匂いを感じさせ、雨が降ると空気中にふわっと広がります。

研究によると、放出されたゲオスミンがワラジムシなどの小さな虫を引き寄せ、その虫が菌の胞子を運ぶのを助けることがわかっています。

雨にあたって空気中に舞い上がったゲオスミンは、まるで湿った森の床や濡れた土を思わせる深い大地の香りを私たちの鼻にもたらします。

雨の三重奏を段階的に感じ取る「人間の嗅覚」

人間の嗅覚は約400種類の機能的嗅覚受容体を備えており、複数の香り分子を同時に検出。

脳内で総合的な香りとして再構築できます。

そして、雨の匂いを予知できるのは時間差で訪れる三つのパートがあるからです。

第一の匂いとしてオゾンが最初に漂い、空気の変化を鋭く告げます。

続く第二の匂いとして、ペトリコールが最初の雨滴の衝撃で甘い余韻を放ちます。

そして降り続く雨によって香りの濃度が増し、第三の匂いである土っぽい香りが支配的になります。

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「雨が降る」と嗅覚で分かる人は、3つの匂いを感じ取っている / Credit:Canva

雨滴と地面の衝突で生じる微小エアロゾルは、風向きや気温湿度といった気象条件に影響されながら、数十キロメートル以上を移動することがあります。

嗅覚感度の高い人は、地元でまだ雨が降り出す前にこれらを捉え、「もうすぐ雨」だと直感できるのです。

こうした能力は、人類の生存に不可欠な水源や肥沃な土壌を探す上で重要な役割を果たします。

そして遺伝的な個人差により、雨の匂いを鋭くとらえる人とそうでない人がおり、その違いが時に「気象予知力」として強調されるのかもしれません。

空気の電気活動と微生物が織りなす大自然の交響曲を読み解く嗅覚は、私たちにとって最も原始的かつ繊細なセンサーのひとつです。