複数の欧州指導者が関心を示す核兵器による抑止案は、同時期に米ニューヨークで開催されていた核兵器禁止条約(TPNW)の締約国会議出席者にとっては逆行する動きとして受け止められたに違いない。
3月7日の会議閉幕日、昨年ノーベル平和賞を受賞した日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)の田中熙巳代表委員はマクロン大統領の核の傘拡大表明を踏まえて、欧州に住む人々に「核の脅威を理解してほしい」と述べて、強い危機感を示した。

ポーランド・トゥスク首相インスタグラムより
米主導のNATO各共有制度
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)による2024年1月時点の推計によると、核兵器保有の上位5カ国はロシア(退役済みで解体待ちを含む核弾頭数:5580)、米国(5044)、中国(500)、フランス(290)、英国(225)。
米欧などが加盟するNATOでは、独自に核兵器を持たない加盟国が米国保有の核兵器を自国の領土内に配備して共同運用している。
現在はトルコ(20)、ドイツ(15)、イタリア(35)、オランダ(15)、ベルギー(15)に配備されている。
核使用の決定権は、核兵器を供給している核保有国が持つ。米国は核共有を通じて欧州の安保体制を支えてきたと言える。一方、フランスの場合は構想、製造、運用に至るまで自国の大統領の決定の下で行う方針を維持してきた。「死活的利益」が脅かされた場合に限って核ボタンを押すのが原則だ。
米国頼みの英国
欧州内では英仏のみが自前の核兵器保有国だが、フランスの核兵器は完全に自国によって開発された独自のもので、英国の場合は核弾頭の設計や搭載ミサイルの調達で米国に依存する点が異なる。米国による核の傘が危うくなった場合、その抑止力を英仏で代替できると言い切れる人は少ないだろう。マクロン氏の核の傘の拡大案は実現するだろうか。
ロシア側の動きを見ると、2023年、プーチン大統領はベラルーシにロシアの戦術核兵器を配備すると表明している。まもなくしてベラルーシのルカシェンコ大統領は核兵器が国内に配備されたと主張し、現在までに国内に持ち込まれた核弾頭が数十発に上ると述べている。2024年12月には、どちらかの国が核攻撃や侵略を受けた場合に核兵器が使用される可能性があることを文書化した。