クマシの行動を研究したピサ大学の霊長類学者エリザベッタ・パラギ(Elisabetta Palagi)氏によると「サルの母親はよく、目の動きを感知するために死んだ子供の顔をのぞき込む」といいます。
というのも、子供から何らかのフィードバックがあれば生きていることが分かるからです。
またクマシは子供の体をつねったり毛繕いをして、反応が返ってこないか確かめていました。
他の仲間が近寄ってきても子供を手放すことは決してなかったようです。

ところが2日目が終わる頃に異変が起きました。
クマシは子供から何の反応も返ってこないことに落ち着きを失くし、わが子を乱暴に引きずったり、木の上から投げ落とすようになります。

そして子供が死んだことを認めたのか、クマシはわが子の亡骸を食べ始めたのです。
結局、飼育員が亡骸を運び出すまでに全身のほとんどを口にしたといいます。
他の仲間はそれを見守るだけで、子供を食べることはありませんでした。
これまでに母ザルが子供の亡骸を食べた事例が何回記録されたかは不明ですが、極めて稀なことに違いありません。
パラギ氏も「科学的な文献では逸話レベルの報告しか見たことがなく、今回の共食いケースはこれまでで最も詳細に報告された記録になりました」と話します。
では、なぜクマシはわが子を食べてしまったのでしょうか?
※ 次ページでは、実際の共食い映像を掲載しています。閲覧には注意してください。
愛すべき子供を食べた理由とは?
私たち人間からすれば恐ろしい蛮行に思えますが、研究者らは「クマシには死んだわが子を食べるだけの正当な理由があった」と考えています。