この「モデリング」と呼ばれるアプローチは、心理学的にも効果が実証されています。認知心理学者のアルバート・バンデューラ博士の社会的学習理論によれば、人間は他者の行動を観察し模倣することで効率的に学習します。特に成功している人の行動パターンを観察し再現することは、独自の試行錯誤よりも短時間で成果につながることが多いのです。

「虚心坦懐」の姿勢が生む成果

私の知人は、バブル崩壊後の超氷河期に3か月の契約社員として大手コンサルティング会社に入社しました。彼は先輩コンサルタントの「トップ層へ直接アプローチする手法」を徹底的に真似ることで、わずか1か月で20社以上の有名企業の役員と面会することに成功しました。

その結果がシニアマネジャーへの昇進と数倍の報酬アップにつながりました。彼の成功の鍵は「虚心坦懐」の姿勢にありました。先入観を持たず、ありのままを素直に受け入れる姿勢が、周囲のプロフェッショナルから学ぶ機会を最大化したのです。

INSEADの研究によれば、「謙虚さ」と「柔軟性」は、リーダーシップの重要な要素であり、学習速度と直接関連しているとされています。自分の経験や知識に固執せず、新しい方法や視点を取り入れる柔軟性が、急速に変化するビジネス環境での適応力を高めるのです。

コピー術の限界と注意点

この方法にも限界があることを認識しておく必要があります。業界や組織文化が大きく異なる場合、そのまま真似ることが適切でないケースもあります。クリエイティブな発想が求められる職種では、過度な模倣が独自性を損なう可能性もあるでしょう。

さらに、単なる表面的な行動の模倣だけでは不十分です。なぜその行動が効果的なのか、背景にある思考法や価値観も含めて理解することが重要です。「型」を学んだ後には「破」る段階、つまり自分なりのアレンジを加える過程が必要になるでしょう。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)