ただしその裏では、ハンガリーのフィツオ首相は自身のモスクワ訪問を批判したカラスEU外交安全保障上級代表を批判し返す文章を公開するといったやり取りも起こっている。ハンガリーは、自国がナチス・ドイツに味方した、という歴史的経緯から、高官のモスクワ訪問は見送ったが、オルバン首相が欧州の反ロシアの姿勢に懐疑的であることは周知の通りだ。ルーマニアの大統領選挙で、40%を獲得したルーマニア統一同盟(AUR)候補のジョルジェ・シミオン氏が決選投票も勝つと、ウクライナが国境を接するEU/NATO加盟国4カ国のうち、ポーランドを除く3カ国がウクライナ支援に懐疑的なグループとなる。そのポーランド首相と並んでキーウを訪問したドイツ、フランス、イギリスの各国において、同じ思想傾向を持つ「極右」政党の支持率が急伸していることも、周知の通りである。

欧州主要国の指導者層は、アメリカのトランプ政権の諸政策に感情的なまでの反発を示すことが多い。ロシアに対しても宥和的すぎると批判しがちだ。しかし「30日間の停戦」案で、アメリカと共同歩調をとろうともしている。選挙の洗礼を受ける必要がないEUのカラス上級代表や、フォデアライエン委員長とは異なる事情を、日ごろから世論調査を気にし続けている各国政府の指導者は持っている。「ウクライナは勝たなければならない」の欧州諸国指導者の間で一時期の決まり文句のようになっていた発言は、聞かれることがなくなった。もちろん何と言っても、ゼレンスキー大統領が、ホワイトハウスでの激突以降、「ウクライナは停戦に乗り気だが、合意しないのはロシアだ」という路線でのトランプ大統領を含めた各国へのアピールの修正をしていることも大きいだろう。

日本でも、トランプ政権発足直後の一時期は、停戦交渉に走るトランプ政権を見限り、徹底抗戦するウクライナを支え続ける欧州諸国と、日欧同盟を結ぼう、といった威勢のいい発言も見られた。だがそれも「トランプ関税」とそれに伴う減税騒ぎで下火になっている印象はある。