米グーグルは先月、ウェブブラウザ「Chrome」のサードパーティCookie廃止の方針を見直すと発表。事実上の撤回かという見方も出ている。同社は昨年7月、プライバシー保護の強化と広告収益モデルに関する新たな技術・Privacy Sandbox(プライバシー・サンドボックス)の機能をオンにするか、サードパーティCookieを利用するかをユーザーが選択できるプロンプトを用意すると発表していた。同社は今回、このプロンプトを展開しないと発表。ユーザーはサードパーティCookieを使用しない場合は、これまでどおり「プライバシーとセキュリティ」のページで設定する必要がある。今回の方針転換の背景には何があるのか。また、世界のインターネットサービスにどのような影響を及ぼす可能性があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

方針転換の背景

 ユーザーのネット上での行動追跡や広告配信に利用されているサードパーティCookieをめぐっては、以前からプライバシー上の懸念が指摘されており、アップルのウェブブラウザ「Safari」をはじめ標準でブロックする動きが広まるなか、グーグルは2020年に「プライバシー・サンドボックス」を開発すると発表し、さらに2年以内にサードパーティCookieのサポートを終了すると発表。だが、その後、その終了は複数回にわたり延期され現在に至る。昨年7月には、ユーザーがサードパーティCookieを利用するかどうか、プライバシーの設定を行うためのプロンプトを導入すると発表したが、今回、その導入を行わないと発表した。

 方針転換の背景には何かあるのか。 システムエンジニアでライターの伊藤朝輝氏はいう。

「サードパーティCookieの代替技術として開発されていたプライバシー・サンドボックスが、現時点ではサードパーティCookieを完全に置き換えるには不十分であることが、撤回の主な理由と考えられます。Chromeを開発するグーグル自身が、売上の8割以上を広告事業から得ている企業であるため、単にユーザーのプライバシーを保護するだけでなく、広告業界からも支持される技術である必要があります。さらに、プライバシー・サンドボックスが普及した場合、広告技術の主導権をグーグルが握ることへの懸念も業界から指摘されています」

 今回の方針見直しは、世界のインターネットサービスにどのような影響を与えるのか。

「サードパーティCookieに依存する広告企業は、現状のシステムを当面維持できるため、広告配信の精度を保つことが可能になります。これにより、広告効果の低下によるクライアントの離脱リスクが減少したと考えられます。広告収入をもとにサービスを提供する事業者も、従来通りの収益を期待できるため、無料または低価格でのサービス提供が維持される可能性があります。

 一方で、ユーザーのプライバシーが引き続き侵害されるリスクは残るため、広告ブロッカーやVPNといった対抗手段を取るユーザーが増えることが想定されます。サードパーティCookieを使い続けることには短期的なメリットがありますが、中長期的には業界の健全な進化やユーザーの信頼回復を妨げる可能性があります。廃止を見送る一方で、グーグルがプライバシー・サンドボックスの開発を継続しているのは、プライバシー保護と広告の両立を模索している表れともいえるでしょう」