アイゼンハワーの懸念は決して過剰な反応ではなかったことが後日、明らかになっていく。ドイツでは現在、極右「ドイツのために選択肢」(AfD)の活動禁止の是非が大きなテーマとなっている。ドイツ情報機関の憲法擁護庁(BfV)が2日、1108頁にも及ぶAfDメンバーの言動をまとめた内部報告書をまとめ、「AfDは右翼過激派である」と断定し、危険団体として監視対象としたことが明らかになったばかりだ。

ドイツのユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュスター会長は「ドイツで益々多くの人々が政治的信念からAfDを選んでおり、極右イデオロギーが顕在化している」と指摘している。

例えば、テューリンゲン州のAfD代表ビョルン・ヘッケ氏は過去、国家社会主義の言葉を彷彿させるレトリックを常用し、国家社会主義に基づく専制政治を公然と主張し、ホロコースト記念碑を「恥の記念碑」と呼び、ドイツの過去に対する悔恨を「過度なもの」として捉えている。極右思想の中核にある「民族的純粋性」や「国家主義」に通じる思想だ。ドイツでは若者の間でAfDの支持者が増えている。アイゼンハワーが恐れていた状況だ。ユダヤ人大虐殺は虚構であり、ガス室は存在しなかったと信じているドイツ人すらいるのだ。

ドイツでシュタインマイヤー大統領は8日、連邦議会でナチス・ドイツが連合国に敗北して80年を迎えたことに関連し、記念演説をし、「過去と向かい合う一方、自由と民主主義を積極的に擁護していこう」と国民に呼びかけた。同大統領はまた、「戦後、世界の安全体制構築で大きな役割を果たした米国で今日、自国最優先を主張する政権が登場してきた」と述べ、トランプ政権を間接的に批判した。ちなみに、バンス米副大統領、ルビオ国務長官、そしてイーロン・マスク氏らトランプ政権を支える最側近たちがAfDを支援する一方、ドイツを民主主義を蹂躙する専制主義国家と批判している。

人間の記憶は選択的だ。自身に好ましい記憶を保持,補足する一方、好ましくない記憶は時間の経過とともに排除、削除していく。個人だけではなく、国家レベルでも程度の差こそあれ同じだ。アイゼンハワーはそのことをよく知っていたのだ。