アン人形は、戦後ノルウェーで絶大な人気を博し、ある年の年間最優秀玩具にも選出されています。

そんなある日、麻酔科医のグループがレールダルの元を訪ね、「新たに開発された心肺蘇生法(CPR)を実演するための人形を作ってほしい」と申し出ました。
そこでレールダルは、CPRを開発したオーストリア人医師ピーター・サファル(1924〜2003)をはじめとする研究者たちと共に「救命措置の練習ができる実物大のマネキンを作る」という歴史的なプロジェクトを開始。
レールダルは技術的な問題もさることながら、「人形の顔はどんなものにすべきだろうか」と考えました。
あれこれと思いを巡らす中でピンと来たのが、義父の家の壁に飾っていた美しい少女のマスク、そう「セーヌ川の身元不明少女」だったのです。

こうしてレールダルは、アン人形を作る手法と名前はそのままに、実寸大のボディにセーヌの少女の顔を取り付け、人工呼吸の練習ができるよう唇を開くなどの修正を加えて、CPR用のマネキンを完成させました。
これが「レスキュー・アン」、アメリカでは「CPRアニー(CPR Annie)」と呼ばれる医療用人形です。

1960年代に発売されて以来、このマネキンは史上初、そして最も成功した「患者シミュレーター」として、何億人もの人々がCPRの救助方法を学ぶことに貢献したのです。
また、レスキュー・アンは世界中の心肺蘇生法の講習会でも使われるようになりました。