太陽系の遥か彼方、海王星よりもさらに外側に未知の巨大惑星が存在するかもしれない――。
長年、天文学者たちを魅了し、議論を呼んできた仮説上の「第9惑星(Planet Nine)」。その有力な候補天体が、古い衛星データを解析していた研究チームによって発見された可能性がある、というニュースが飛び込んできた。これは人類が初めて目にする第9惑星の姿なのだろうか?
興奮と懐疑:赤外線データが捉えた「動く点」
この発見は、過去に打ち上げられた二つの衛星(1983年のIRASと2006-2011年のAKARI)が残した赤外線観測データを詳細に分析する中で見出された。台湾国立清華大学の博士課程学生、テリー・ファン氏率いる研究チームは、データの中から太陽系の既知の天体とは異なる動きをする「点」を探し出したのだ。
研究チームは、この候補天体が複数の赤外線画像に写っており、その色や明るさが一貫していることから、二つの異なる衛星によって捉えられた同一の天体である可能性が高いと結論づけた。その動きは太陽から遠く離れた巨大惑星の動きと一致するように見えたという。
「とても興奮しました。私たちの研究意欲を大いに刺激してくれました」と、ファン氏は科学誌『Science』に語っている。研究成果は査読前論文として公開され、『Publications of the Astronomical Society of Australia』誌での掲載も受理されている。
しかし待った! 提唱者は懐疑的「予測される軌道と違いすぎる」 しかし、この発見に対して、科学界からは早速、懐疑的な声も上がっている。特に注目されるのは、2016年に同僚と共に第9惑星仮説を提唱したカリフォルニア工科大学のマイク・ブラウン氏の反応だ。彼は今回の研究には関与していないが、報告された候補天体の軌道を計算し、それが「第9惑星ではない」との見解を示している。
ブラウン氏の計算によると、この天体の軌道は太陽系の公転面(主要な惑星がほぼ同じ面上を回る面)に対して約120度も傾いているという。これは、第9惑星仮説で予測される傾き(約15~20度)とは大きく異なり、既知の惑星とは逆方向に公転している可能性さえ示唆する。
ブラウン氏の見解では、この候補天体の軌道は第9惑星仮説の予測から大きく外れており、仮説の根拠であるカイパーベルト天体の軌道異常を引き起こすこともできない。したがって、たとえこの天体が存在したとしても、これが探求されてきた「第9惑星」そのものである可能性は低い、ということになる。
そもそも第9惑星仮説は、太陽系外縁部のカイパーベルトと呼ばれる領域にあるいくつかの天体が、奇妙な楕円軌道を描いていることを説明するために提唱された。その歪んだ軌道は、未知の巨大惑星の重力によって影響を受けているのではないか、と考えられたのだ。しかし、一部の研究者は、これらの軌道の偏りが観測バイアスによるものであり、未知の惑星の存在を仮定する必要はないと主張しており、第9惑星の存在そのものがいまだ確定的ではない。
