さらにマウス実験などでは腸内細菌叢を操作することで、社会的な序列に決定的な影響を与え、上位マウスがわずか数日で下位へ転落させたり、抗生物質で腸内細菌を排除すると意欲低下を起こすこともわかりました。

加えて腸内細菌叢の変化は免疫機能や炎症の程度にも影響を及ぼし、結果として行動・情動の変化につながる可能性があります。

こうした知見から、腸内細菌叢が単なる消化の担い手ではなく、体全体の生理や精神活動の調節にも関与する重要なプレーヤーとして注目されているのです。

そのため現在では、腸はある意味で脳を支配しているとする主張も見られます。

進化的にも腸は脳などの中枢神経より古くから存在していることが知られており、先輩臓器である腸から新参臓器の脳に指示が送られるのは、ある意味で自然と言えます。

では脳の側から腸内の微生物叢に影響を与えることは可能なのでしょうか?

この疑問は長らく未解明の課題でした。

そこで今回研究者たちは、脳からの指示に腸内細菌叢が反応できるのか、また反応するとしたらどうなるかを調べることにしました。

しかし脳から腸への指示といっても、さまざまです。

研究者たちはどんな方法で脳から腸への信号を送ってみたのでしょうか?

2時間で腸が別人?脳が送り込む“瞬間指令”の正体

2時間で腸が別人?脳が送り込む“瞬間指令”の正体
2時間で腸が別人?脳が送り込む“瞬間指令”の正体 / Credit:Canva

脳から腸へどうやって信号を送るのか?

研究者たちは最もダイレクトな方法をとりました。

脳の摂食行動を司る視床下部の神経細胞を人為的に操作して腸内細菌叢に何が起こるかを調べたのです。

より具体的には空腹感を引き起こす神経細胞(AgRPニューロン)と満腹感を伝える神経細胞(POMCニューロン)の活動を選択的に「スイッチのオン・オフ」し、その直後に腸内の細菌構成を分析したのです。

さらに、食欲や代謝を調節するホルモン(レプチンやグレリン)を脳内に投与する実験も組み合わせ、脳から腸への様々なシグナルが腸内細菌叢に与える影響を比較しました。