実際、自動車工場などの製造業では生産ラインの停止を余儀なくされた。バレンシア郊外のフォードの工場も稼働を中断した。また、中小規模のスーパーマーケットも営業停止に追い込まれた。一方、バレンシア発祥で国内最大手のスーパー「メルカドナ」は、自社保有の発電機を稼働させて通常通り営業を継続。総合百貨店「エル・コルテ・イングレス」も各店舗に設置された発電機により営業を続けた。

このように、大手小売業者は資金力と設備を備えていたため対応できたが、中小業者はそうはいかなかった。総合病院も同様に発電機を備えており、大きな支障はなかった。

大規模停電の背景と再生可能エネルギーの課題

今回の大規模停電の背景には、スペインの電力の約70%を再生可能エネルギー(特に太陽光と風力)に依存しているという事情がある。再生可能エネルギーはコストが安価な反面、天候などの影響を受けやすく、安定した供給が難しい。一方で、原子力発電は採算が取れにくいため、電力会社は運転を控える傾向がある。

現在、原子力発電は全体の12%程度しか占めておらず、火力発電はわずか4%未満とされている。停電発生時には、原発3基が停止していた。再生可能エネルギーと他の発電方式のバランスを取らなければ、今回のように15ギガワットの電力がわずか5秒で失われるという事態が起こる。これは、スペイン全体の電力需要の約60%に相当する。

さらに問題なのは、再生エネルギーによって発電された電力を備蓄するシステムがスペインには存在しない点である。

管理機関の構造的問題も

また、スペインの電力網(全長約4万4000km)を管理する半官半民企業「レッド・エレクトゥリカ(Red Eléctrica)」にも問題がある。同社の役員12名のうち6名が与党・社会労働党と関係を持っており、政治的な影響が色濃い。会長のベアトリス・コレドール氏は社会労働党政権下で住宅相を務めた経歴を持つが、電力分野の専門知識はないとされている。こうした体制では、電力の安定供給という本来の任務を果たすのは困難だ。