そんな精錬所の跡地を美術館として改装し、2008年にオープンしたのがこの犬島精錬所美術館。ここは医療廃棄物の処理場にしようと計画されていましたが、直島を中心に瀬戸内を芸術の島にしようと考えた福武財団が精錬所を買収してこれを阻止して美術館に生まれ変わらせました。
芸術作品として終わらせるだけではなく、かつての精錬所の遺構も多く残し、大規模な施設を短期で打ち捨てたうえ大きな公害を残した人間の所業の愚かさもそのままわかるような展示がなされています。
黒いレンガ塀は精錬所創業時の物で、白い石は美術館開業時に新たに組まれたもの。精錬所ができる前、犬島は石の生産が盛んでした。大坂城再建にあたってはここから巨石が切り出され海を渡っていったといいます。

上から精錬所の各部屋の跡を見下ろす。

打ち棄てられひび割れた煙突。 ここから出る煙が猛毒で犬島の人々を苦しめました。
個人的には廃墟群を巡る旅は好きでこれまでも和歌山県の友ヶ島や神奈川県の猿島、広島県の大久野島などを訪ねました。廃墟群の退廃的なものの美しさを愛でることは悪いことではないですが、その裏には戦争や、公害で苦しめられた人たちが必ずいます。暗い歴史も学びながら歩くことを忘れてはいけません。
さて、今は瀬戸内トリエンナーレ期間中。犬島は「家プロジェクト」が展開され、集落の中にいくつか作品が点在していますので歩いて見ることにします。

F邸 Biota (Fauna/Flora)
家の中を埋め尽くすような巨大な彫刻に目を奪われます。躍動的で今にも家から飛び出てきそうです。
かつて石職人の家があった跡には古代の絵画を思わせるようなアート作品があります。いつかこの絵も古代画のように風化して消えていきますが、その時代の中で生きた人々の記憶の中で生き続けていきます。

A邸。
カラフルな絵の中に置かれた椅子。椅子に座るとこの絵はすべて見えなくなり、犬島の日常世界だけが見えるようになります。仮想世界と自然の調和を表現しています。