加えて、メディア環境の分断も大きな問題です。アメリカのメディアは、民主党支持層向け(CNN、MSNBCなど)と共和党支持層向け(Fox Newsなど)に完全に色分けされており、視聴者はそれぞれ「自分たちにとって心地よい情報」だけを受け取る環境に置かれています。

SNSのアルゴリズムもそれに拍車をかけています。興味関心に基づいて情報が選ばれるため、ユーザーは自分と同じ意見の人の発言ばかりを見るようになり、異なる立場を知る機会が減ります。結果として、**社会全体の“共通の現実”が崩壊し、「対話」よりも「敵意」で動く政治」**が生まれやすくなるのです。

こうした事情を考えると、アメリカは「投票率が高くても民意が反映されにくい制度」を数多く抱えた、ある意味“例外的に歪んだ民主主義”だということがわかります。

つまり、投票率が高くても政治がうまくいかないのは、「投票率が無意味だから」ではなく、「制度や環境が民意の受け皿として機能していないから」なのです。

したがって、日本のようにまだ制度が比較的中立で、メディアや選挙区割りにそこまでの党派的偏りがない国では、投票率の上昇が政治を良くする可能性があるのです。

なぜ、アメリカではこうした制度が成立してしまったのか?

1つはの要因は、アメリカが多様な利害と文化を前提とする「連邦国家」だということです。

アメリカは50の州が集まってできた「合衆国」であり、それぞれの州が独自の文化・歴史・法律を持っています。人種、宗教、経済構造も州ごとに大きく異なります。

そのため、国全体で「共通の民意」を形成することが難しく、制度的に「地域代表」や「州の自立」を優先せざるを得ない構造になりました。

大統領選における「選挙人制度」も、各州が選挙制度を管理できる仕組み(ゲリマインダーの温床)も、上院のような「人口ではなく州単位で代表を出す」制度も、一票の平等を犠牲にしてでも“州ごとのバランス”を取るために生まれた仕組みだと言えます。