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政府は今後5年間で1兆円を投じ、人材への投資、とりわけリスキリングの推進に注力するとしています。労働者のスキル向上を図り、将来的な雇用の確保を目指すという点では、一定の合理性を備えた政策と言えます。実際、私自身も氷河期世代向けのリスキリング事業を活用した経験があり、個人としてはその恩恵に感謝しています。

しかし、氷河期世代全体を見渡したとき、本当に今必要なのはリスキリングなのでしょうか? 氷河期世代には、就職の門戸が極端に狭められたことで、正社員としての第一歩を踏み出せなかった人も多くいます。その結果、多くの人々が派遣社員や契約社員、アルバイトといった非正規雇用に甘んじざるを得ず、生活基盤を安定させる機会を失いました。私自身も大学卒業時、正規雇用の仕事に就けず、一年間フリーターを経験しました。

当時、「自己責任」の名の下に非正規が広がる中でも、誰よりも真面目に働いてきたのがこの世代でした。ようやく職に就いても、長時間労働やサービス残業など、過酷な労働環境の中で心身をすり減らし、体調を崩して退職を余儀なくされた方も少なくありません。私自身もその一人です。

氷河期世代の多くは、決してスキルがないわけでも、努力を怠ってきたわけでもありません。ただ「時代の波」に翻弄され、安定から遠ざけられてきたのです。

あるSNS投稿では、取引先からは熟練の社員だと思われていた氷河期世代のスタッフが、実は正社員登用をちらつかせながら20年以上雇われていたアルバイトで、その人が辞めたら製造機械のメンテナンスから入出荷や在庫管理まで全てできなくなり、会社が廃業(事実上の倒産)というものがあった。これは氷河期世代が既に実務能力を有し、現場の屋台骨を支えていることの証左です。

にもかかわらず、非正規という立場ゆえに社会保障や賃金面で正当に評価されず、不安定な生活を強いられているのが現状です。もちろん、持ち得ているスキルが今後の技術革新に適応できるかという課題はあります。しかしまずは、すでに高い能力を有しながらも不遇をかこっている人々の待遇改善が優先されるべきではないでしょうか。