また水銀入りの釜に入って釜の下から火を付けて水銀を蒸発させる水銀風呂といった方法も取られていたのです。
このような治療は梅毒が治るまで続き、「ビーナスとの一夜、水銀との一生」ということわざができたくらいです。
こういった治療が本当に梅毒に対して効果があったのかについては未知数ですが、梅毒患者の多くがこのような治療法によって水銀中毒になり、梅毒ではなく水銀中毒で命を落とすことになったことは確実と言えるでしょう。
万能薬として考えられていた金

また中世以前の各文明において、金はその希少性と輝かしい美しさから、ただの装飾品に留まらず、医療や錬金術の領域でも至高の薬として扱われていました。
とりわけ中国において金の可能性について注目されており、錬丹術師が「錬丹術師は金を食べて長生きしている」と書き残したりしています。
また中国の薬学の百科事典的存在である「本草綱目」に「水に金を入れて煮込んで黄金水を作り、それでうがいをすれば歯の痛みが無くなる」と記されていたのです。
中世に入るとヨーロッパでも金の薬としての可能性を希求する動きが生まれ、塩化金(王水で金を溶かすと生まれる物資)を水に溶かして飲む人もいました。
また先述したパラケルススは「飲用金は万能薬である」と主張して宣伝して回っていたのです。
特に、病苦に悩む貴族層の間では、金製の調剤や、金箔を施した薬剤が贅沢な治療法として好まれたのです。
しかしながら、金そのものの生理活性は極めて限定的であったことが後の科学的検証で明らかとなり、その薬効はむしろ象徴的な意味合いに留まると判断されるようになりました。
現在でも一部の店舗ではソフトクリームや寿司に金箔をかけて提供しており、金を食べること自体は行われています。
しかしこれはあくまでゴージャスさを演出するためであり、決して万能薬として摂取されているわけではありません。
ヒ素に浸したパンを万能薬として食べていた
