教科書通りのマイクロマネジメントとは違う

 では、前述の3人の経営者をはじめ成功する経営者は、共通してマイクロマネジメント志向なのか。

「これら3人のマネジメントスタイルをマイクロマネジメントだと批判する声があるのは事実です。しかし、イーロン・マスク自身がその批判を否定しています。実際に彼ら3人の経営スタイルは、従来の教科書通りのマイクロマネジメントとは違うものです。

 伝記を読む限り、マスクとジョブズのマネジメントスタイルは非常に似ています。それは本当に重要な細部についてだけ徹底的に介入してマネジメントしようとする点です。テスラでは『シュラバ』と呼ばれる『ここで失敗したら会社そのものがなくなる』という局面においては常にマスクが現場介入して、細かい点に徹底的にこだわるマネジメントを行います。『半年以内に工場の生産性を倍増させないと投資家からの資金が潰えてしまう』とか『次回の投資家ミーティングの場で自動運転技術ができることを示さないと企業価値が維持できない』といった場合です。そのようなシュラバでは、マスクは打ち手がゴールに到達できるかを重視し、ゴールから外れる妥協は許しません。より現実的な解を提案する幹部のクビを即座にはねて、別の人間を据えるようなことまで行います。

 ジョブズも同じで、iPhoneが誕生するにあたって『キーボードを設置しないこと』『裏面が鏡面のようなステンレスケースで高級感を保つこと』など、まだスマホが世に出る前の段階で彼が大切だと考えるスペックについては、開発メンバーに対して絶対に妥協を許しませんでした。

 このような2人のやり方を、細部にうるさいことからマイクロマネジメントだと批判する声があります。しかし経営学的には彼らのやり方はマクロマネジメントを発展させたもののように見えます。要するに、テスラにしてもアップルにしても、企業全体では非常に優秀な従業員を採用したうえで権限を与え、かなりの仕事を任せるマネジメントをしています。会社が目指す方向、今開発している重要商品の意味など大きな方向性を共有したうえで、かなりの部分は幹部の自主性に任せないと、あれほどのスピードでのイノベーションは起こせないのです。

 一方で会社全体がイノベーションを目指している以上、どうしても譲れない細部が存在します。そこはマスクやジョブズにとっては細部ではなく、最も重要な方向性だという位置づけです。ですから、そこに自分の資源を集中して、徹底的に細部に関与するのが彼らのやり方です。これは従来のマクロマネジメントを改良して、最重要ポイントだけマイクロマネジメントする経営手法だと捉えるとわかりやすいかもしれません」(鈴木氏)

 エヌビディアのフアンCEOは、これとは少し違った経営スタイルをとっているという。

「エヌビディアは従来の大企業のような階層を排して、CEO直下に60人の幹部社員を配置しています。通常の大企業はCEOの下に執行役員が10人ほど配置され、CEOはそれらの執行役員に対してマクロマネジメントのスタイルをとることが定石でした。しかし、そのやり方では大組織でのイノベーションのスピードが遅くなるため、フアンはその6倍の数の部下たちを自分が直接マネジメントする体制に変えたのです。このやり方だと、フアンにはものすごく大きな負荷がかかります。スーパーCEOだからこそ採用できた特別な経営スタイルだと捉えるべきでしょう」(鈴木氏)