近年、このビタミンの派生物が「脳内のガソリンタンク」までも満たすのではないかという報告が相次いでいます。

中でもTTFDは、通常のチアミンより吸収率が高く、血液脳関門を通過して前頭前皮質に到達しやすい化合物とされています。

過去の研究(Saiki et al., 2018)では、TTFDが前頭前皮質のドーパミン濃度を上げ、ラットの自発運動を増やすことが示されました。

そこで浮かんだ疑問は二つあります。

一つめは「この元気は筋肉がラクになったおかげなのか、それとも脳の覚醒スイッチが入った結果なのか」。

二つめは「覚醒を長時間伸ばした場合、普通は“眠気の借金”として後に強い疲労が来るはずだが、本当にツケは回らないのか」です。

栄養素が自然に覚醒を後押しするのであれば、従来にないパフォーマンスブースターになるかもしれません。

そこで研究者たちは、ラットにTTFDを投与し、脳波・筋電図・行動を同時に記録しながら、覚醒時間と睡眠構造、そして翌朝のリバウンド睡眠を精密に検証しました。

10分で覚醒、60分で再加速:ビタミンB1誘導体の特殊な覚醒パターン

10分で覚醒、60分で再加速:ビタミンB1誘導体の特殊な覚醒パターン
10分で覚醒、60分で再加速:ビタミンB1誘導体の特殊な覚醒パターン / TTFDを投与されたラットは明らかに運動量が増加しています/Credit:ビタミンB1誘導体には覚醒を誘導する効果がある

実験では成体オスのラット6匹を用い、頭蓋に極小ネジ電極を装着して脳波(EEG)を、首筋にワイヤを挿入して筋電図(EMG)を記録しました。

ケージの四面に配置した赤外線センサーで自発運動をミリ秒単位で追跡しました。

まず全個体に生理食塩水を注射し、静かな標準状態を取得しました。

翌日、同じ時刻にTTFDを50 mg/kgの用量で腹腔内投与し、投与後10〜90分を主観測窓として解析しました。

投与約10分後、ラットの運動量が急増し、20分ほどで一度落ち着いたのち、60分付近で再びピークが現れる「二峰性パターン」が記録されました。