研究チームは、兵士たちの脳をfMRIで精密に解析し、脳内の各領域がどのように連携しているか(機能的結合性)を調べました。
特に注目したのは、「外側後頭皮質」「内側前頭皮質」「上前頭回」といった、記憶や感情制御、空間認識に関わる領域です。
そしてその結果を一般的な健常者や爆風に晒された経験のない兵士、合計212名の脳画像を比較。
その結果、高いレベルの爆風曝露を経験していた兵士たちは、これらの領域間の結合性が有意に低下していることがわかったのです。
さらに臨床スコアと結合性の間には負の相関が見られ、神経結合性の低下により脳の情報伝達が弱くなっていた兵士ほど、メンタルヘルス異常の症状も重くなっていたのです。
具体的には、爆風曝露の多い兵士たちは、不安、気分の変動、イライラ、集中力の低下、物忘れ、思考の遅さ、頭痛、吐き気、疲労、めまい、バランス感覚の障害といった症状を多く訴えていました。

また驚くべきことに、爆風に多くさらされた兵士の一部では、外側後頭皮質の体積が健常者や低曝露群よりもむしろ大きくなっていたのです。
これは良い兆候ではなく、瘢痕(はんこん)や炎症による長期的な組織変化を示している可能性があり、見た目では異常がなくても脳内では何かが進行していることを示すものだといいます。
今回の研究が持つ最大の意義は、「軽度」で「外傷の痕跡がない」ように見える脳損傷が、実は深刻な神経変化を伴っている可能性があるという点です。
しかも、それは軍人だけの話ではありません。
スポーツ選手や交通事故の被害者など、一般の人でも同様の“繰り返される衝撃”にさらされることがあります。
この研究は、今後の診断技術の発展や治療戦略の見直しに大きな示唆を与えるものであり、まさに「見えない脳外傷」を見つけ出すための第一歩と言えるでしょう。
もしかしたら、あなたの身近な「ちょっとした不調」も、脳の静かな悲鳴かもしれません。