●この記事のポイント
・「コストコ 南アルプス倉庫店」に併設するガソリンスタンドが3月15日に開業し、営業開始から2時間で250台もの車が訪れた。
・コストコ会員向けのガソリンスタンドがあることで、会員が年何回もリピートするという効果が発生。
・儲け度外視で会員制のガソリンスタンドを併設することは、会員にとってもコストコにとってもウィンウィンのメリットがある。
会員制スーパー「コストコホールセール 南アルプス倉庫店」(山梨県南アルプス市)が今月11日にオープンし、未明から1000人以上の行列ができるなど高い人気ぶりがうかがえるが、併設する会員向けガソリンスタンド「南アルプス倉庫店ガスステーション」が3月15日に開業し、営業開始から2時間で250台もの車が訪れたことがニュースとなっていた。ガソリンスタンド(GS)は全国各地で廃業が相次ぎ「GS難民」という言葉が出るほど社会問題となっているが、なぜスーパーを本業とするコストコは、まったく異業種であるGSの運営に力を入れているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
世界で897倉庫店(2025年1月22日現在)、国内で36倉庫店(24年11月21日現在)を展開するコストコは、日本では珍しい会員制を採用。年会費はエグゼクティブメンバーは9900円、ゴールドスターメンバー(個人会員)は4840円、ビジネスメンバー(法人・事業主用会員)は4235円となっている。一般的なスーパーでは見られない大容量かつ格安の食品などが特徴的だ。
そんなコストコは以前から店舗に併設するかたちでGSを営業している。南アルプス倉庫店のGSは24台が同時に給油でき、周辺のGSより1リットル当たり概ね20円以上安く、セルフサービスでコストコの会員証が必要となっている。GSといえば数の減少が問題となっており、資源エネルギー庁の調査によれば、2024年の倒産・休廃業件数は184件と3年連続の増加となっている。
会員向けのサービスであるから販売からは利益が出なくてもいい
コストコがGSの営業に力を入れる理由は何か。経営戦略としては、どのように分析・解説できるか。経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏はいう。
「コストコは業界的には日本ではスーパーに分類されますが、より精密にいえば会員制のホールセール業態で、そのことで通常の大手小売店とは異なる3つの特徴があります。1つめに、商品を大型のパッケージで激安販売することです。コストコは安いですが、とにかく一つひとつのパッケージが大きいことが特徴です。2つめに、大量買いにフィットさせる目的で自家用車でアクセスすることが前提の場所に出店すること。駅近で徒歩で行けるコストコは首都圏の幕張倉庫店や新三郷倉庫店など全国的には少数派です。
そして3つめの特徴が、他にはない本当に特徴的な要素なのですが、毎年の利益がほぼ会員からの年会費収入の合計額と同じ金額になることです。コストコの安さの秘密がここにあって、『会員向けのサービスであるから販売からは利益が出なくてもいい』という前提で価格設定をしています。
そこでガソリン販売ですが、そもそも会員の大半が車に乗ってくるのでガソリンを買うニーズがあります。他のGSではガソリン価格が上昇しているなか、コストコならば原価相当の会員価格でガソリンが入れられるとなると会員は喜ぶわけです。しかも会員向けにこのサービスがあることで、コストコ会員がコストコに年何回もリピートするという効果が重要です。コストコには他にも、集客目的での原価無視のお得な商品があります。有名なのが総菜売り場に売っているロティサリーチキンと、フードコートのホットドッグです。コストコのガソリンも周囲のガソリン価格相場と比べると10~15円安いといわれています。コストコの年会費は今年5月から個人会員でこれまでの4840円から5280円へと値上げされます。それでも年4~5回コストコを利用して、そのたびにガソリンを満タンにすれば、それだけで年会費の元がとれます。このように儲け度外視で会員制のガソリンスタンドを併設することは、会員にとってもコストコにとってもウィンウィンのメリットがあるのです」