これは奇抜で無謀な提案に見えますが、火星のような巨大な惑星の大気圧や気温を変える上では、実は合理的な方法なのです。
しかし問題は別にあります。
それは氷の小惑星はどこから持ってくるのかということです。
氷の小惑星をどこから持ってくるのか?
チェホフスキ博士が着目しているのが、火星より外側に位置するカイパーベルト(Kuiper Belt)です。
カイパーベルトには氷を多く含んだ小天体が無数に存在していることがわかっています。
しかし問題は、こうした天体をどうやって火星まで運び、安全かつ効果的に衝突させるかという点にあります。
カイパーベルトの天体は、太陽に近づきすぎると熱や重力で崩壊する可能性があり、また重力アシストなどで導くと途中で失敗するおそれもあります。
そこで博士は、重力ではなく、核融合炉で駆動するイオンエンジンのような推進装置を作り、それによって氷の小惑星を軌道制御する方法を提案しています。
ただこうしたイオンエンジンの開発は、まだ空想の段階でしかなく、それを実際に開発するには膨大な資源とコストがかかるでしょう。

それでも、この研究が重要なのは「物質が存在する場所」と「現実的に使える手段」の両方を具体的に提示した点にあります。
地球外天体の活用というアイデアは、これまでロマンの域を出なかったものの、今回の研究によってエネルギー計算の裏付けが与えられ、「やろうと思えばできる」可能性が初めて現実的に語られるようになりました。
これは火星を第二の地球とする夢に一歩近づくための重要な理論的ブレイクスルーといえます。
今後は、天体の制御技術や衝突シナリオのシミュレーションが進めば、さらに具体的な工程としての道筋が見えてくることでしょう。
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参考文献
Terraforming Mars Will Require Hitting It With Mulitple Asteroids
https://www.universetoday.com/articles/terraforming-mars-will-require-hitting-it-with-mulitple-asteroids