謎を解明するため研究者たちは、“実験”の代わりとして強力な数値シミュレーションと理論モデルの解析を組み合わせる方法を取りました。
というのもブラックホールの内部を観測装置で覗き込むようなものではないからです。私たちの住む宇宙では、ブラックホールは強大な重力井戸として近づきがたく、光さえ逃げ出せないほどの極限環境だからです。
そこであたかもコンピュータ上にブラックホールの仮想空間を用意し、そのなかで多次元ブレーンの「超迷路(supermaze)」を構築して動かしてみる――そうした手続きが行われたのです。
結果、「ブレーン同士が滑らかにつながり、“情報”が奥深くに閉じ込められる回廊ができる」ことを示す解が見つかったのです。
たとえるならば、迷路のあちこちが袋小路になっていて、そこに入り込んだ“情報”が外へは出にくくなる、というイメージです。
一方で、ブレーンの“傾斜”や“重なり方”をほんの少し変えると、逆に情報が外側へと逃げ道を見つけられるようなルートが出現するパターンもあったといいます。
これはまるで、一見同じように見える迷路でも、ほんのわずかな角度差によって出口が増えたり、ゴールとの距離が激変するようなもの。
研究者たちはこの変化の大きさこそが、ブラックホール内部の「柔軟で多彩な構造」を裏づける手がかりだと捉えています。
さらに興味深いのは、一部の解では「見かけ上はブレーンがほぼ同じ配置」に思えても、数値的に詳しく追うと内部の“回廊の形”ががらりと変わる場合があった点です。
ブレーン間に生じる“細いトンネル”のような領域が出現し、そこを通じて局所的にエネルギーや情報が移動できるのだとか。
こうした現象は、ブラックホールの情報喪失パラドックスを解決しうる可能性をより強く示唆します。
なぜなら「完璧に閉じこめられる」という状態ばかりでなく、「どこかを通って(ホライゾンの外側を含む)別の領域へ抜け出せる」シナリオも描きうるからです。