ところが、多次元にわたり複数のブレーンが交差する様子は非常に複雑です。

単純に「迷路になるかもしれない」と言っても、具体的にどのような条件で交差が起こり、そこに存在するはずの情報がいかに振る舞うのかを説明するのは容易ではありません。

しかも、この“超迷路”を完全に解き明かすには、数学的にも高度な微分方程式を解きこなす必要があります。

たとえば「M2ブレーンとM5ブレーンがどの角度で組み合い、どこに“通路”を作るのか」など、マルチレベルにわたるパラメータが絡むため、一筋縄ではいかないのです。

そこで本研究チームが注目したのは、「迷路方程式」というアプローチです。 

研究者たちは、この方程式が満たされると、驚くほど豊かなブラックホール内部の幾何学が一挙に描き出せると考えています。

たとえるならば、複雑極まりない迷路を“ただ一つの地図”で丸ごと示すようなイメージです。

しかも、この迷路構造を把握できれば、ブラックホールに落ちた情報が実際にはどのような“道筋”を通って存在し続けるのかという問題に答えられる可能性があります。

研究チームの一人はプレスリリースの中で

「この方程式が示す多彩な解が、ブラックホール内部に想像以上の柔軟性と可変性を与えている」

と述べており、情報喪失パラドックスの解決策として期待が高まっているそうです。

多次元ブレーンの配置や傾斜が少し変わるだけで、迷宮の中に新たな通路が開けたり、逆に完封状態になる可能性があるからです。

そのため今回研究者たちは、M2ブレーンとM5ブレーンの交差構造をあらためて整理・分析し、どのような条件下で“超迷路”が成立するのか、そしてその迷路が情報を保持し得る物理的機構を明らかにすることにしました。

ブラックホールの内部構造を解明する

ブラックホール内部は多次元の超迷路になっている
ブラックホール内部は多次元の超迷路になっている / Credit:Canva

ブラックホール内部の物理機構はどうなっているのか?