連立交渉の合意が記録的な速さで成立した背景には、ウクライナ戦争、国民経済の低迷に加え、トランプ米政権の関税政策による波乱など、ドイツを取り巻く外交、経済的な圧力は日増しに高まり、連立交渉で多くの時間を費やす余裕がなくなってきた、といった思いがCDU/CSUとSPDの両党指導者に共有されていたからだろう。

連立交渉で最後まで激しい政策的対立があったのは移民政策と税制問題だった。メルツ氏は、移民政策については「不法移民をほぼ終わらせる。国境での管理や亡命希望者の拒否も行われる」という。また、国民手当は「撤回」される一方、企業は特別減価償却と法人税減額によって救済される。従業員に対しては、通勤手当の増額、週労働時間の上限設定、非課税残業代、いわゆる非課税現役年金などが設けられる。目標は中小所得者の所得税の軽減だが、実際には政権2年後までは実現できない情勢だ。また、家賃の統制、最低賃金は15ユーロに上昇されるなどが挙げられている。

一方、データ保持が再導入される予定だ。連邦警察は、重大犯罪と戦うために、通信監視が認められる。治安当局には、容疑者の顔をインターネット上で公開されているデータと比較するために人工知能などを利用することも許可される等々だ。

経済専門家は、米国の関税により、輸出志向のドイツ経済に新たな景気後退リスクと問題が生じると見ている。次期首相候補のメルツ氏は、法人税の引き下げ、官僚機構の縮小、エネルギー価格の引き下げでこれに対抗したいと考えている。

なお、省庁の配置では、CDUは6つの省庁を占める。約60年ぶりにCDUが外相のポストを得る予定だ。SPDは7つの部門を担当し、CSUは3つの部門を担当する。新しいデジタル化・国家近代化省もCDUが担当する。SPDは防衛、金融、環境、気候保護といった重要な主要部門を担当する。

メルツ氏は当初、イースターまでに政府を樹立することを目標としていたが難しくなった。新しい連邦政府は5月初めに発足する予定だ。SPDの30万人の党員は連立協定について投票する。CDUでは4月28日の小党大会で決定し、CSUでは執行委員会で決定することになっている。