年齢を重ねるにつれて私たちの体内ではさまざまな変化が起こりますが、そのペースが予想より速い人がいる、というイメージです。
いわば、年齢という名のカレンダーを半年早回しにめくっているような状態と考えるとわかりやすいかもしれません。
ではなぜ、その“早回し”が起こるのでしょうか。
ここで関わってくるのが「エピジェネティック(表現型可塑性)」という仕組みです。
DNAの配列自体には変化がなくても、そのDNAにくっつく化学的なタグ――メチル基(メチル化)など――が付いたり外れたりすることで、ある遺伝子が活性化したり、逆に抑え込まれたりします。
こうしたエピジェネティックな変化は、例えるなら本の文章そのもの(DNA配列)は書き換えずに、欄外に付箋やマーカーでメモを書き足すようなもの。
大掃除や衣替えのように、外部環境やストレスによって付箋が増えたり貼り替えられることで、細胞の働きが変化しやすい仕組みなのです。
実際には、エピジェネティックな年齢を測る「エピジェネティッククロック」という方法があり、ここではDNAにおける特定のメチル化箇所を指標にして、“細胞の老化度”を数値化します。
もしこの指標が同じ年齢層の平均より高ければ、「生物学的には実年齢より先に進んでいるかもしれない」と推測されるわけです。
人によっては、過度のストレスや栄養状態、生活習慣などの影響で、この“時計の針”が速く進む場合があります。
逆に、健康的な暮らしや運動習慣が、時計の針をゆっくりにする可能性も報告されています。
エピジェネティックな変化の面白いところは、DNAの配列自体を大掛かりに作り替えることなく(これは進化的には時間がかかる工程です)、比較的短期間で細胞の状態を変えられる点にあります。
いわば、遺伝子レベルの「緊急モード」や「高速モード」が働いて、環境に合わせた素早い対処が可能になるのです。
ところが、この素早い適応がうまく働かない場合や、逆に過剰に働きすぎた場合には、細胞が必要以上に“老化”へと進んでしまうリスクが高まるのではないか――ここに注目することで、私たちはストレスや生活環境がもたらす健康リスクを、従来の“カレンダー年齢”以上に正確に測れるかもしれないと期待されています。