この面から見れば、「どのような姿勢や思い込みを持つか」は、身体だけでなく精神面への影響が大きいと言えます。

ただし、この研究にはいくつかの限界もあります。

被験者が主にワクチン接種への意欲が高い人たちであったため、接種に対して否定的あるいは不安の大きい層がどのような反応を示すのかは必ずしも明らかではありません。

また、結果は相関関係を示すものであり、厳密な意味で「マインドセットが変われば抗体が上がる」という因果関係を証明したわけでもないのです。

心理学の実験では、マインドセットを意図的に変化させる介入(たとえばポジティブな情報を与える短い動画や説明資料など)を行い、その前後で明確に体や心の反応の変化を測定するアプローチが今後の課題となるでしょう。

それでも、今回のデータからはワクチン接種をめぐる「心の持ち方」の多様なかたちが見て取れます。 

症状が出たとしても「ああ、ちゃんと免疫が動いているんだな」と考えれば、体へのダメージというよりも防御力がアップしているサインのように感じられますし、そもそも「このワクチンは自分を守る力になるはずだ」という期待感が強いほど、不安やストレスが少なく快適な接種体験を得られます。

逆に、強い不安や否定的な印象を持ったまま接種に臨んだ場合、実際の副反応や感情面でより負担が増してしまう可能性があるのです。

研究チームによれば、今後はさまざまな年齢層やワクチン接種への態度が異なる人々を対象に、より多様なマインドセットがどのように体験や免疫に影響を与えるかを調べていく計画があるそうです。

こうしたデータがさらに蓄積されれば、医療機関や自治体がワクチン接種前の説明のしかたを工夫したり、接種会場での声かけに活かしたりといった、新しいアプローチの可能性が広がるでしょう。

ワクチンそのものを改良するだけでなく、人々の心の準備や気持ちの持ちようを少し変えるだけで、接種後の体験がポジティブになり、結果的に社会全体の健康水準が向上する――そんな未来が待っているのかもしれません。