では、それぞれの分野で今どれほど常識の革命が進んでいるのか、見てゆきたい。

第Ⅰの柱 米国を再び安全に

これは端的に言うと、主にメキシコにカナダを加えた2か国から米国内に流入してくる不法移民による犯罪と、フェンタニルなどによる薬物中毒者の蔓延を、これ以上容認しないスタンスを表明したものと筆者は捉えている。

移民による犯罪が増加傾向にあり、またフェンタニルによる死者が7万人以上※4)という状況を考えれば当然の措置と考えることができる。フェンタニルを含む薬物による死者数は2014年の47,055人から2022年の107,941人(≒229%)へと急上昇している※5)。

図1 CDC 薬物による年齢調整死亡率(10万人当たり)

トランプ氏は就任初日(1/20)の大統領令※6)で、「カルテルの活動は、アメリカ国民の安全、アメリカの安全保障、西半球の国際秩序の安定を脅かしている」として、トレンデアラグア(TdA)やラ・マラ・サルバトルチャ(MS-13)をテロ組織に指定した。

フェンタニルという最凶の麻薬

米国麻薬取締局(DEA)の2022年12月のプレスリリース※7)によると、2022年に10,000ポンド(4,500kg)以上のフェンタニルと、さまざまな処方鎮痛剤に似せて作られた5060万錠以上のフェンタニルを押収したと記されている。これはなんと、3億7900万人の致死量に該当するそうである。つまり、2022年に押収されたフェンタニルだけで、信じ難いことに全ての米国人の致死量に相当するのである。

メキシコやカナダに対して25%の関税をかけることも辞さない姿勢を見せるトランプ氏※8)について、「フェンタニルを理由にした関税強化だ」、「もっと穏便にやるべきじゃないか」といった論調の記事も多い。これら論調は、本質を見誤っているとしか言いようがない。

一人でも多くの命を守るための一刻一秒の争いである。逆によくも今までこの問題を放置してきたものだと筆者は思う。少々手荒な手法だったかもしれないが、実際にカナダとメキシコの両国首脳は、フェンタニルと移民対策に即座にコミットすることになった。ディールに勝利したのはトランプ氏と言えよう。