涙より先に出たのは、冷静な言葉だった

不思議と、泣きませんでした。

むしろ心が静まり返って、妙に落ち着いていたのを覚えています。

「私さ、浮気されたら泣き叫ぶタイプだと思ってたけど……案外、冷静だね」

「……本当にごめん」

「うん、ごめんね。でもそれ、私にじゃなくて、あなたの人生に言うべきかも」

そう言い残して、私は書類を持ってそのまま出勤しました。
涙は、その夜ひとりでベッドに入ってから流れました。

でも、感情が全部整理されてからの涙は、どこか“自分を癒すため”のようでもありました。