これまでの研究でも、アルツハイマー病の患者は健康な患者に比べて、有害な腸内細菌を多く持つことは知られていましたが、腸内細菌を介した伝達が起こり得るかは不明でした。

調査にあたってはマウスと16匹の健康な若いマウスが用意され、糞便移植によって腸内細菌の移植が行われました。

すると移植を受けた健康なマウスたちに記憶障害が発生し、新しいことを覚えられなくなっていることが判明します。

また記憶障害のレベルを調べたところ、アルツハイマー病がより重症だった患者の腸内細菌ほど、移植されたマウスに、より深刻な症状を起こしていることが示されました。

この結果は、アルツハイマー病の重症度と腸内細菌が関連しているだけでなく、移植によって健康なマウスに症状が「うつる」ことを示しています。

研究者たちも実験結果を受けて「アツルハイマー病の症状が腸内細菌を介して若く健康な生物に伝達される可能性があることが、世界ではじめて確認された」と結論しています。

(※今回の研究では糞便移植を介したアルツハイマー病症状の伝達について確認されたものであり、アルツハイマー病患者との単純な接触が症状を移すことはありません)

次に研究者たちは、どの腸内細菌が脳に対してどんな影響を与えるかを調べることにしました。

腸内細菌の出す毒素が脳にダメージを与えていた

腸内細菌の出す毒素が脳にダメージを与えていた
腸内細菌の出す毒素が脳にダメージを与えていた / Credit:Canva . 川勝康弘

アルツハイマー病患者の腸内細菌は、なぜ健康なマウスに症状をうつすのか?

謎を解明すべく研究者たちは腸内細菌の種類を調べていました。

人間やマウスの腸には、主に食物繊維を栄養源として酪酸を生成してくれるクロストリジウム族やコプロコッカス属などの善玉菌が存在しています。

酪酸には腸内壁の清掃や治癒を促す作用があります。

しかし研究者たちがアルツハイマー病患者の腸を調べると、酪酸を作ってくれる善玉菌の数が減少していることが判明。