しかしトランプ政権には、その程度の常識を助言できる側近もいない。キャスはカレッジ卒のアマチュアで、経済学の学位ももっていない。ミランのマールアラーゴ合意は、関税を他国の攻撃に使うものだ。
いずれも相手国が報復関税をかけたらどうするのか考えていない。アメリカが世界経済の中で圧倒的な地位をもつ基軸通貨国であり、他国はそれに従うしかないと思っている。
グローバリゼーションは先進国の労働者を貧困化するグローバリゼーションによる国際分業の深化は避けられない。情報技術の飛躍的な進歩によって知識労働者と単純労働者の所得格差が拡大するスキルバイアス技術進歩(SBTC)は、先進国ではどこでも起こっている問題である。
安い労働力を求めて資本がアジアに移動する結果、新興国は豊かになるが、先進国の単純労働者は貧しくなる。このようなグローバリゼーションの逆説を逆転する方法は今回のような保護主義しかない。
これをアメリカ人は「他国が不公正な手段で輸出している」と攻撃する傾向が強い。80年代もそうだったが、それは双方の国にとって利益にならないばかりでなく、最悪の場合は世界経済のブロック化を招き、世界大戦を招くというのが1930年代の教訓である。
それに対して日本は空洞化を「デフレ」ととらえて見当違いな金融政策に10年を空費し、衰退をさらに深刻化した。これを脱却する手っ取り早い手段はないが、トランプ関税をチャンスととらえて関税を全面的に撤廃し、TPPを強化して自由貿易圏のリーダーになってはどうだろうか。