日本の株価が上伸する中で富士通だけがぽつんと取り残されたのはそれが理由とされます。そして16日の証言で富士通側がどんな発言をするのか、注目されるわけです。パターソンCEOは富士通本体の執行役でもあるので発言は当然ながら富士通本体の意向を反映したものだと考えられます。
疑問点の2つ目は15年間、問題が出続けていたのに富士通はなぜ、それに踏み込まなかったのか、という問題もあります。一部にはポストオフィスとの契約という話もありますが、それにしても700人もの冤罪を招く前に契約当事者間での調査や対策は取れたでしょう。
私は門戸外ですが、この問題の原因の可能性はシステムが一時的なフリーズをしている際に入力キーを押し続けると押した回数だけ実際に入力された形になるというものです。わかりやすい例だとオンラインショッピングで購入のボタンを3回押したら商品が3つ、代金も3倍取られた、という話がホライゾンシステムで起きた、ということではないか、と理解しています。
さて、富士通はこの問題が起きた後も英国官庁の仕事は受注しており、英国にとっても富士通にとってもなくてはならない存在になっています。その中でドラマでお涙頂戴という感性に訴えてしまった以上、相当の対応を余儀なくしなくてはいけないだろう、とみています。
一方で富士通と英国政府の関係は正直、微妙な点もあります。富士通と英国政府の推進するNational Health Services (NHS、国民健康サービス=医療保険)のシステム構築契約で遅延による損害で富士通が契約解除されます。富士通はこれを不満とし、訴訟、結局富士通が7億ポンド勝訴したのです。これは英国にとっては不満であり、よって富士通は官庁業務の優先落札企業リストから落ちてしまっています。この辺りの感情論もあるのかもしれません。
これに似た問題はアメリカで起きたレクサス急加速事故でしょう。2009年から10年にかけて起きた事件でブレーキが利かず、衝突事故を起こし、家族4人が死亡したとされるものです。これを契機にあちらこちらから同様の問題を指摘する声が出てます。一方、トヨタ側の反応は鈍く、後手後手に回ったことからアメリカの近年の自動車スキャンダルとしては極めて大きなものになってしまいました。結局、ブレーキそのものに問題が発見されず、ことは収束しましたが、トヨタが窮地に陥った数少ないケースであります。
今回も問題の発端は小さなシステムのバグでした。コンピューター開発に於いてバグなどいくらでも存在します。そのバグが起きることが分かっていながら早めに対応すればなんということもなかったのに国民感情にまで発展させてしまったことは英国ポストオフィスに限らず富士通側にも企業のリスク管理という意味で不備があったと言わざるを得ない気がします。
英国では日立など日本企業がインフラを提供しているケースは多く、日英の信頼関係にもつながってきます。ここは営利主義や責任のなすり合いではなく、最善の対策を取り、えん罪で人生を棒に振った人たちに詫びるとともに早く信頼を取り戻すことを考えるべきかと考えます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月16日の記事より転載させていただきました。
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