一方、ロシア側は旧ソ連軍用の神経剤が検出されたにもかかわらず、毒殺未遂事件への関与を否定してきた。ナワリヌイ氏らの努力によってロシア連邦保安庁(FSB)工作員が犯行に関与していた事実を掴んだ。ナワリヌイ氏が2021年1月17日、健康を回復してモスクワに帰国すると、ロシア当局は同氏を過去の有罪判決の執行猶予条件に違反したとして拘束した。その後、同氏は禁錮2年6カ月の実刑判決を受けた。今年9月には過激派組織を創設した罪などで19年の禁錮刑を言い渡され、モスクワから東約260キロ離れたウラジーミル地方コヴロフの収容所に拘留されてきた。

ところで、反体制派活動家、政治家が突然行方不明になるのはナワリヌイ氏が初めてではない。元モスクワ地方政治家アレクセイ・ゴリノフ氏(62)の行方が現在不明だ。ゴリノフ氏はウクライナでのロシアの攻撃を公に批判してきた。モスクワの裁判所は2022年7月、ロシア軍に関して「故意に虚偽の情報を広めた」として同氏に懲役7年の有罪判決を下した。ゴリノフ氏は、以前投獄されていたモスクワの東約200キロメートルにあるポクロフの流刑地にはいないという。ゴリノフ氏の弁護士らはゴリノフ氏の居場所や健康状態に関する情報を入手しようとしていたが無駄だったという。弁護士らの話によると、ゴリノフ氏の健康状態は非常に悪く、気管支炎を患い、呼吸困難を抱えていた。彼は必要な投薬を拒否されたというのだ。

プーチン氏の権力掌握術が如何なるものか一目瞭然だ。自身に反する政治家、活動家を弾圧し、牢獄に送る一方、国営メディアを通じて国民を洗脳していく。ロシア国民の場合、ソ連共産党時代から上からの権力で弾圧され、言論の自由を剥奪されてきた。ロシアとなった後も、大多数のロシア国民は自由に自身の考えを公表することを恐れているのだ。

ロシアの著名な哲学者アレキサンダー・ジプコ氏(Alexander Zipko)は独週刊誌シュピーゲル(7月8日号)とのインタビューの中で、「ロシア国民は強い指導者を願い、その独裁的な指導の下で生きることを願っている」という。そして「ロシア人は自身で人生を選択しなければならない自由を最も恐れている」と。残念ながら、ナワリヌイ氏の「プーチンのいないロシア」という声は荒野での叫びで終わってしまう可能性があるのだ(「『自由』はロシア国民を不安にさせる」2023年7月15日参考)。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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