興味深い点は、メルツ党首の政策の激変に対して野党側が批判するのならば理解できるが、メルツ党首のCDU内で不満の声が高まっているのだ。NTVは「メルツ党首は党内の求心力を失いつつある」という。特に、党指導部の「債務制限」と「特別財源」に関する急転換を、党員や支持者は納得できないでいるからだ。
ZDFの政治世論調査によれば、CDU/CSU支持者の44%が「メルツ党首は有権者を欺いた」と考えている。バルト海沿岸のリゾート地キュールングスボルンにあるCDUの地方支部で、18人の党員がほぼ全員、党を離脱しているのだ。党指導部への不満は党内の上層部まで広がってきている。メルツ党首自身「批判は根拠のないものではない」と認めているほどだ。
メルツ党首としては、選挙公約の「移民政策」と「税制」問題でCDU色を発揮して、党員の不満を解消したいところだが、SPDとの交渉では決して安易な問題ではない。選挙戦でCDUは「税金は上げない」と約束し、特に高所得者向け減税を強調してきた。一方、SPDは富裕層向けの最高税率を42%から47%に引き上げる案を主張している。また、移民政策では、メルツ党首は1月、「国境での難民申請拒否」など厳格な5つの方針を発表し、「一切の妥協をしない」と明言してきたが、SPDとの連立協議の草案では「近隣諸国と協調して対応する」と柔軟な表現に変わっている。CDUは「近隣諸国の合意は不要」と主張してきただけに、CDU支持者にとって「なぜ譲歩するのか」といった批判が飛び出してくるわけだ。
メルケル氏との権力争いで敗北し、メルツ氏は一時期政界から足を洗い実業界で歩んできたが、政治を忘れることが出来ず、政界にカムバック。そしてCDUの党首に就任し、総選挙で第1党に復帰できた。長年の夢だった首相のポストが現実的になってきたこともあって、メルツ党首は連立交渉ではSPDに譲歩し過ぎている面が見え出した。

CDUメルツ党首インスタグラムより