こうした知見が示すのは、ホフスタッターの蝶が単なる“数学的ファンタジー”ではなく、実在する電子系の強相関やトポロジカル性、さらには量子自由度を統合した“複合的なステージ”になっているという事実です。

フラクタル模様が保持されるかどうか、どこでギャップが開くか閉じるか、そしてバンドがどのようにエネルギー空間を埋め尽くすか――これらの要素には、磁場と格子という枠組みだけでは解ききれないほど多彩な因子が絡んでいるのです。

そして何より注目すべきは、そうした多彩な因子がかもしだす量子ドラマを、“実験室スケールの磁場”で観察できるようになったことです。

もはや数千テスラ級の磁場を追い求める必要はありません。

モアレ超格子を巧みに利用し、適切な角度と温度、測定手法を組み合わせることで、蝶の羽根をじっくりと拡大し、その多層的な相関のパターンをすくい上げる――このアプローチは、今後さらにさまざまなモアレ材料に広がり、私たちがまだ見ぬ量子相や超伝導、トポロジーといった“深い森”を切り開くかもしれないのです。

結局のところ、フラクタルとは“一見すると同じ模様が繰り返される”ように見えながら、その実、観察条件がわずかに変わるとまったく違う表情を見せる神秘に満ちた世界。

ホフスタッターの蝶は、そのフラクタルの妙を私たちに存分に味わわせながら、同時に強相関物質や量子ホール系の理解をぐっと深めてくれる、極めて有望な舞台だと言えるでしょう。

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参考文献

Quantum fractal patterns visualized
https://www.eurekalert.org/news-releases/1075053

元論文

Spectroscopy of the fractal Hofstadter energy spectrum
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08550-2