本書はまた、進化に関する誤解を正すことにも力点を置いている。たとえば「進化は進歩である」という誤解や、「生物は必ず漸進的に進化する」という固定観念に対しては、進化には急激な変化もあることや、進化が必ずしも複雑さを増す方向には向かわないことを説いている。また、恐竜の絶滅を引き起こした隕石衝突などの突発的事象が、進化に大きな影響を及ぼすことも例として挙げられており、ダーウィンの唱えた漸進主義への批判も含まれている。
そして、科学技術の発展が進化論の理解を一変させた点も強調されている。著者自身の学生時代には、放射性同位体を使った危険な方法でDNA解析を行っていたが、PCR法や次世代シークエンサーの登場により、塩基配列の解析速度は劇的に向上し、進化の研究が飛躍的に進んだ。そうした背景のもとで、現在の進化論はダーウィンの時代とはまったく異なる姿を見せており、古い概念のままでは理解が追いつかないとも述べている。
全体を通じて、本書は「進化論とは何か」を多角的に紹介しつつ、その変遷と現代的意義を丁寧に説いている。読み物としても非常に面白く、一般読者が進化の本質に触れる最良の導入書のひとつであると言える。
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【目次】 第1講義 進化とはなにか『種の起源』をめぐる冒険 『種の起源』はいかに受け入れられたのか ダーウィニズムとネオダーウィニズム 進化は進歩ではない。『種の起源』前夜とそれ以降 獲得形質の遺伝は存在する 恐竜の絶滅とダーウィンの誤り 第2講義 自然淘汰とはなにか もっとも曲解されたダーウィンの主張 なぜ生物は進化するのか? 生存に不利な遺伝子が淘汰されない理由 性淘汰と自然淘汰の関係をみる 集団における自然淘汰の働き 生存闘争―地球の定員をめぐる闘い 第3講義 さまざまな生物から進化を考える 化石が証明した進化の道筋は偶然の結果なのか――ウマ 進化の多様性と異形の生物――タリーモンスター 角のあるなしを決めるオスの役割―糞虫 恐竜から鳥にどのように進化したのか――ミクロラプトル アリの生存戦略と進化する細菌―ハキリアリ 進化の速度を決定するものとは―グッピー 種のいびつな繁栄と絶滅の相関―リョコウバト 第4講義 遺伝子からみた進化論 ヒトはいかに誕生したのか 「ヒトらしさを決める遺伝子」はいつ生まれたのか? エピジェネティクス、親子の類似性はDNAだけではない DNAの一致度98・7パーセントのチンパンジーとヒトの血縁度がゼロである理由 近親交配と進化の法則をめぐるジレンマ 私たちは先祖のほとんどからDNAを受け継いでいない!? 第5講義 さまざまな生命現象と進化論 全生物の「共通祖先」は「地球最初の生物」ではなかったかもしれない 「種」に寿命は存在するのか。その出現と絶滅率 宇宙に生物がいるとしたら、どんな形か考えてみると 生命40億年の進化をやり直しても人類は誕生するか 生物と無生物の境目とは。そこから見える不都合な未来 第6講義 ヒトをめぐる進化論 ミトコンドリア・イブは全人類の母ではなかった 生物のボディプランと進化の速度 進化論から考えるヒトの寿命を延ばす方法 意識とは何か? シミュレーション仮説に思うヒトの生 ヒトは進化に抗うことができるのか サルからヒトへ。進化の「ミッシング・リンク」はなぜ見つからないのか