前頭前皮質は計画力や意思決定などの高度な認知機能に関わる領域として知られ、そこに着目してヒトと他の霊長類との違いを探る研究が数多く行われています。

実際、脳の進化を比較した過去の研究でも、ヒトでは前頭葉の一部が顕著に拡大していることが示唆されています。

しかし研究チームは「こうした従来の焦点とは異なる場所にヒトならではの秘密が隠されているのではないか」と考え、今回の研究を開始しました。

具体的には、ただ脳の大きさや形を比べるのではなく、どの領域がどのように他の領域とつながっているか、つまり脳内の接続構造そのものに注目したのです。

ヒトにしか存在しない「脳のつながり」とは?

研究者たちは今回、大脳の表層を覆うシワシワの部分である「皮質」と、大脳皮質のさまざまな部分をつなぐ「白質」に注目しました。

そしてヒト・チンパンジー・カニクイザルという3種の霊長類の脳のMRIデータを用い、白質と皮質との接続関係を詳細にマッピング。

それぞれの脳領域が、どの白質線維とどれだけつながっているかを表現した「接続の指紋(connectivity fingerprint)」を作成し、種ごとの違いを統計的に比較しています。

その結果、これまで重視されてきた前頭前皮質よりも、耳の後ろあたりにある「側頭葉」と頭のてっぺんあたりにある「頭頂葉」の一部に、ヒト特有の接続パターンが集中していることが特定されたのです。

なかでも「弓状束(きゅうじょうそく)」という白質経路が、側頭葉と前頭葉を広範につないでいるのはヒトだけに見られた特徴でした。

画像
Credit: canva

この経路は高度な言語の処理に関与するとされていますが、今回の解析では感情の理解や社会的行動の処理にも関連していることが示されました。

また、他者の考えや感情を推測する能力に重要な役割を果たすとされる側頭頭頂接合部も、ヒトでは他の霊長類より多くの視覚処理領域とつながっていることがわかりました。