「アテノドロスの幽霊屋敷」。これは記録に残る最も古い幽霊話の一つとされ、今から約2000年前、古代ギリシャがローマの影響を受け始めた時代にまで遡る。この物語は、ローマの文人小プリニウスが書き残した書簡によって今日に伝えられており、当時の人々が超自然的な現象や死後の世界をどのように捉えていたのか、その一端を垣間見せてくれる、実に興味深いエピソードである。

 物語の主人公は、紀元前1世紀に活躍したストア派の哲学者、アテノドロス・カナニテス。彼はアテナイ(現在のアテネ)を訪れ、滞在先を探していた。その中で彼は一軒の広々とした家を見つけるのだが、その家賃は広さの割に妙に安かったのである。

幽霊屋敷に挑んだ哲学者

 家の大きさと値段の不釣り合いに興味をそそられたアテノドロスが理由を尋ねると、その家は「幽霊が出る」と噂されており、そのため借り手がつかないのだという。地元の人々は彼にそこに泊まらないよう忠告したが、アテノドロスは警告を意に介さず、むしろその謎に惹かれてその家を借りることに決めた。まさに哲学者らしい探求心と言えるかもしれない。

 約2000年前のある夜、アテノドロスは不気味な雰囲気や幽霊の噂にも動じず、書斎で執筆に集中しようと決めていた。すると夜が更けるにつれ、遠くで鎖を引きずるような音が聞こえ始めた。その音は次第に大きく、近くなり、ついには部屋のすぐ外まで迫ってきた。これぞ古典的な幽霊話の幕開け、といったところだろうか。

 しかし、実際にその場にいたアテノドロスの心境は穏やかではなかったはずだ。不気味な音に興味をそそられつつも、いくばくかの恐怖を感じながら、彼は音の正体を探ろうとした。その瞬間、彼の目の前に現れたのは、鎖に繋がれた老人の幽霊だった。その幽霊は、アテノドロスがどの部屋に行こうとも、執拗についてくるのだった。

 それでもアテノドロスは冷静さを失わなかった。彼は幽霊に「待て」と合図し、何事もなかったかのように執筆を続けたのである。

世界最古!?約2000年前の“実話怪談”「古代ローマの哲学者アテノドロスと鎖の幽霊」
(画像=画像は「Wikipedia」より,『TOCANA』より 引用)