今年はスイスと中国との国交樹立75周年に当たり、自由貿易協定(FTA)の更新も予定されている。スイス下院外交委員会は、調査結果をFTA交渉に反映させるように求めていたが、スイス政府の報告書にはそれに関した記述はなかった。ただ、報告書の著者ヴェーバー教授は「中国に対して慎重な姿勢で知られるスイス政府が、このような研究を委託したことは注目に値する」と評価している。

もう少し報告書をみる。スイスにも他の欧州諸国と同様、数十人の中国国家安全部の関係者が大使館や領事館職員となって潜伏しているという。報告書は、中国がスイス当局に対して圧力をかけた事例にも言及している。

興味深い事実は、スイス政府が調査結果を公表するまでには時間を要したことだ。報告書は昨年4月に完成していたが、公表は何度も延期された。ヴェーバー教授は「内容が非常にデリケートであり、行政側で詳細に検討すべき点がいくつかあったためではないか」という。明確な点は、スイス政府内で報告書の取り扱いで意見が分かれていたことだ。

ただ、スイス連邦政府は2月12日、報告書の結果を受け声明を発表している。声明では亡命者への基本権侵害を明確に非難し、亡命手続きに立ち会う通訳者をより慎重に選別するなどの予防措置を列挙している。問題はスイス政府が今回の調査結果を踏まえ、中国にどう対応するかだが、具体的な方針はあいまいだ。

スイス被抑圧民族協会は、連邦政府が提示した措置は具体性に欠けていると訴え、スイスは「国境を越えた弾圧」を明確に定義し、効果的な対処に向けた法的基盤を整備するよう声明で求めた。また、通報・保護センターの設置や、政治的な意思決定プロセスに該当者を参加させるほか、スイス政府は事例を公表し、加害者の国外追放を徹底すべきだと訴えている。

なお、ベルン大学は、2025年度秋学期からチベット語コースの学生募集を停止する。同大はチベット語が学べる唯一のスイスの大学だ。スイス・インフォが今月25日報じた。