欧州連合(EU)は現在、27カ国から構成されているが、ポーランドとハンガリーの2国はこれまでEUの共通価値観である民主主義と法治国家の原則に違反しているとしてブリュッセルから批判されてきた。ただし、ポーランドで昨年12月11日、元欧州理事会議長のドナルド・トゥスクを首相とした新政権が誕生したことで、そのEU政策もブリュッセル寄りに変わってくることが予想される一方、昨年10月に発足したスロバキア新政権はEUのウクライナ支援に消極的な姿勢を示すなど、スロバキア・ファーストを歩み出してきた。ハンガリーと共に、スロバキア新政権は、EUの結束に大きな影を投げかけている。

スロバキアのフィツォ首相(スロバキア政府公式サイトから)
昨年9月30日に実施されたスロバキア議会の繰り上げ選挙で、ロバート・フィツォ元首相が率いる野党「社会民主党(スメル)」が第1党にカムバックした。その結果、中道左派「方向党-社会民主主義(Smer-SD)」を中心とする、中道左派「声-社会民主主義(Hlas-SD)」および中道右派「自由と連帯(SaS)」から成るフィツォ連立政権が発足した。
フィツォ氏は2006年から2010年、そして2012年から2018年まで首相を務めた。2018年にジャーナリストのヤン・クシアク氏とその婚約者が殺害された事件を受けて、イタリアのマフィアとフィツォ首相の与党の関係が疑われ、ブラチスラバの中央政界を直撃、国民は事件の全容解明を要求、各地でデモ集会を行った。フィツォ首相(当時)は2018年3月15日、辞任を余儀なくされた(「スロバキア政界とマフィアの癒着」2018年3月17日参考)。 l その後のスロバキアの政情は腐敗とカオス状況が続いた。フィツォ首相の後継者に同じ社会民主党系スメルからペレグリニ副首相が政権を担当、スメル主導の連立政権を継続した。ただし、2020年2月に総選挙が行われ、マトヴィチ党首率いる「普通の人々」、「我々は家族」、「自由と連帯」、「人々のために」の4党から成るマトヴィチ首相率いる新政権が発足したが、連立内の対立でマトヴィチ首相は辞任。ヘゲル新政権が発足したものの、少数派政権となって2022年12月、内閣不信任案が可決され、総辞職に追い込まれ、昨年9月の繰り上げ総選挙実施となったわけだ。そしてフィツォ氏が再びスロバキア政治の表舞台に登場してきたわけだ。
5年前のジャーナリスト射殺事件で引責辞任に追い込まれたフィツォ氏が政治にカムバックできた背景には、前政権の行政能力のなさがあることは明らかだ。また、新型コロナウイルスの席巻、ウクライナ戦争の長期化で、国民経済が停滞し、国民の生活は厳しいという事情がある。
そのスロバキアで11日夜、フィツォ新政権に反対して数千人の国民が抗議デモを行った。野党3党が主催した抗議デモは経済犯罪や汚職との戦いを担当してきた特別検察庁(USP)の廃止に抗議することが大きな目的だ。野党は法の支配に対する脅威と警告し、「フィツォ政権は過去の汚職事件を隠蔽しようとしている」と非難している。現地からの情報では、ブラチスラバの抗議デモには約2万人が参加し、「フィツォは辞めろ!」「フィツォを刑務所へ!」などのスローガンを掲げた横断幕が掲げられた。