おそらくこの第一話で出番終了の、使い捨て。
それに異を唱えたのが、鳥嶋だった。
この原稿にようやくOKを出して、続く第二話のネーム(鉛筆によるラフ草稿)を鳥山に描かせたら…
アラレが出てこない
「ああ鳥山くん? 第一話のこの子、とてもいいのに、どうして第二話で出さないの? こっち主役にしなよ」
鳥嶋は当時「ジャンプ」で人気低迷中だったアクション刑事ものに、あるアイドル歌手似の婦人警官を、準主役で登場させるよう漫画家に促して、打ち切り寸前だったのを一気に人気回復させて、自信を抱いていた。
鳥山先生にすれば「ドクタースランプ」の異名を持つこのおっさんの天才的AHOぶりを見せつけるために(そして鳥嶋に促されて)用意した、一回きりの捨てキャラ。
それゆえに第一話のこの最終コマで、彼女は人間ではなく、博士の珍発明でしたーと見せつけて幕とした。
ただ、ここではアンドロイドとわかるような描写はされていない。
鳥山先生にすれば「博士の珍発明だったと、結局お姉さんにばれちゃったー」だったのだが…
担当編集・鳥嶋はそうは読まなかった。
すごいぞこの子、黒縁メガネのスーパーガールやんか面白い!
鳥嶋の目
視線誘導の線を引いてみよう。
こうやって時計回りして…
ぐるっと回って…
女の子に戻ってくる。
鳥嶋が、この誘導ベクトルの連鎖を即座に見抜いて、興奮した様が目に浮かぶ。「主役はこの子だ!」と。
「鳥山くーん、この子主役にしようよー」
しかし鳥山先生は、この電話に非常に戸惑ったという。
その後描かれたとおぼしいこの扉絵に、鳥山の戸惑いがよく現れている。
時計回りのベクトル!
おそらくこの最終コマが描かれた後…
鳥嶋から「この子主役にしなよ」と強く促されての戸惑いが…
その後描かれた扉絵に、強くにじみ出たものと推察される。
にもかかわらず、タイトルは「Dr.スランプ」。鳥山は譲らなかった。「これはあくまで“スランプな博士”の話だ」と。結果としてその後繰り広げられたのは、天才AHO博士の作り出した天真爛漫な少女ロボットが、想定外の行動を毎回しでかし、彼を、そして街を振り回すというユニークな構造の物語だった。