ホワイトカラーより農家?

自分は東京の外資系でサラリーマンをやっていた時は変化への対応がとにかく大変だった。毎日、外資コンサルが何人もやってきて外国人に英語でディスカッション、プレゼン。ITシステムの導入は1週間も自宅に帰れず、泊まり込みで作業をしたり、本社からやってきた役員におもてなししたりでキャリアの椅子を奪い合う生活だった。結果を評価されると嬉しいが、それ以上にしんどいと感じることは結構多かった記憶がある。「仕事をしてお金を稼いで生きていくのは大変なことなんだ」と感じた瞬間は何度もあった。そんな東京でもサラリーマンで年収1000万円に届く人は少数派である。

自分自身がそうした世界を見てきたので、地方に移住して稼ぐ農家達を見てびっくりしたのだ。ここにはグローバルのベストプラクティスの導入とか、先端のAI、ITシステムとか、生産性向上のデータ分析とか、時にコンサルと喧嘩腰で英語のディスカッションしたり、会議が始まる前に胸の前で十字架を切る必要なんてない。外へ出かけるといつものんびりと時間が流れている。

筆者の近所は9割が農家で、スイカ農家やメロン農家だ。1割は代行運転手、老人ホーム勤務、スーパーの勤務、カフェの店員などである。筆者は「あなたは何の仕事をしているの?」と聞かれるといつも困ってしまう。正直に答えても理解してもらえない事が多いからだ。「フルーツのネット販売の会社経営してます」「YouTubeで英語を教えてます」「ネットや雑誌で記事を書いてます」このどれを答えても全然しっくり来てない様子だ。近所の人からは「あの人は結局、何やってるかよくわからない」という印象を持たれていることだろう。だから最近は厳密に伝えることを諦め「果物屋さん」と答えるようにしている。

農家でよく稼ぐ人は全員ではないが意外なほどいる。彼らはグローバル規模での過当競争にさらされたり、AIやITの脅威もない。野菜やフルーツの種類によっては人力で生産できる小規模運営者なら、インフレや円安の影響も限定的である(生産物によって状況は大きく異なるが)。

ここにて現実を見れば、東京で一流企業のサラリーマンで寝る間も惜しんで勝負する人の中には「これなら農家で頑張ったほうが報われるかもしれない」と考える人が出てくる可能性はあるだろう。地方でのスローライフは必ずしも報われるとは限らない。だが、それは東京に行ってビジネスで勝負する場合でもまったく同じである。無理に一流大学に行ってサラリーマンになるより、地方で農家をやる方がQOLが高いという人は意外なほど多いかもしれない。もちろん、あまい話だけではないことは言うまでもないのだが。

 

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