黒坂岳央です。

正直、筆者はフルーツビジネスで起業するまでは農業について誤解をしていた。従来、言われてきた農業の3Kとは「キツい・汚い・危険」であり、田舎で農業をするなら東京でスタイリッシュで先進的なオフィスでホワイトカラー職につく方がどうしても「勝ち組」という印象があった。

しかし筆者が熊本県に移住して驚いたのは、高収入農家が意外なほど多いことである。これなら東京でリーディングカンパニーに就職するよりも魅力的だと感じる人は出てくるかもしれない。

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高収入の農家たち

たくさんの従業員を抱えて大規模経営でフルーツの生産者の社長は複数の外車を乗り回して頻繁に新車を買い替えていたり、地元でメロンづくり達人もいつも高そうな服を来ている。農家以外でも飲み会で全身ブランドに包まれて登場した酪農家は兄弟で家族経営をしており年収は数千万円で安定しているし、鶏卵業者はまるでお屋敷のような豪邸に住んでいたりしてとにかく羽振りがよい人がいる。もちろん、農家全員がそういうわけではないが、周囲から見て地味に働いている農家で驚くほど収益を上げていたりするので仰天させられる。

昨日、れんこんを一人で作り続けている農家に話を聞く機会があった。彼は年収1500万円を安定してずっと稼いできたという。いわく、れんこんは基本は田んぼの泥で育てるものであり、育成は簡単だが収穫が大変なのだという。そこで収穫はバイトを雇い、現場リーダーに指示を出させて自分は高齢者ということも会って悠々自適に生活をしている。その気になればもっともっとこの何倍も稼げるのだが「そこまでお金を稼いでも使い道がない」ということで適当にセーブしている状態ということだ。

この場所では他にれんこんを作っている農家がいないため、地元では「れんこんといえば彼」というほどだ。実際、スーパーにいってみたがりんごやみかんなどは商品ラベルの生産者はバラバラなのに、れんこんは見事に彼の名前だけ。完全に独占状態で作ったものはすべて売れていく状況である。

この農家、とっておきの栽培の特許を持っているわけでもなく、ITやロボット技術を活用しているわけでもない。企業経営的に大規模栽培もしておらず、一人で細々と栽培し、安定的に売上を作っている。外資やAIやITの影響を受けることもない。何十年も静かにずっと稼ぎ続けているのだ。