そこで近年、バクテリアなどの微生物を利用して「環境に優しいプラスチック」を作ろうという試みが進められています。

たとえば一部のバクテリアは、栄養が不足したときに体内にPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)というポリエステル系の物質を蓄える性質があります。

PHAは生分解性が期待できるため、石油に依存しないプラスチック生産の候補として研究されてきました。

しかし、ナイロンのように「アミド結合(窒素原子を含む結合)」を含む強靭な素材を、バクテリアで直接生み出すことは簡単ではありません。

アミド結合を連続的につなげるための酵素は自然界でほとんど発見されていないからです。

そこで研究者たちは、大腸菌(遺伝子の改変が容易で多くの実験研究に使われる細菌)に特殊な酵素遺伝子を組み込み、「アミノ酸」を連ねてナイロンに似たプラスチックを生合成させるという全く新しいアプローチに挑みました。

大腸菌を改造してプラスチック工場にする

大腸菌を改造してプラスチックを生産させることに成功
大腸菌を改造してプラスチックを生産させることに成功 / 酵素の 1 つは、アミノ酸 (左) をコエンザイム A に結合します。2 つ目の酵素は、これらの項目を結合してポリマーを形成します。/Credit: Nature Chemical Biology (2025)

研究チームが行った実験は、大腸菌に「新しい組み立て図」を与えるようなイメージで進められました。

もともと大腸菌は、飢餓状態になると炭素源を長い分子鎖にして貯蔵するシステムを持っています。

そこに別種のバクテリア由来の特殊な酵素を導入し、炭素源だけでなくアミノ酸も取り込んでつなげられるように設計しました。

ただし、大腸菌にとって「見慣れない」酵素は毒性を持つ場合があり、細胞が弱るリスクがあります。

そこで、少しずつ耐性を獲得した細胞を選抜する「進化的アプローチ」を採り、さらに培養環境や栄養条件を最適化することで、より多くのプラスチックを作れるようにしました。