東京ビッグサイトや幕張メッセなどの大型展示場をはじめ、全国各地で開催されている展示会。コロナ後のオフライン回帰の流れを受けて、現在も年間700本以上の展示会が開催されています。2023年、Sansan株式会社が実施した『BtoBマーケティングに関する実態調査』によるとBtoB企業の42%が実施しているという、熱が高まるマーケティング手法の1つです。

 現在、これほどまでに展示会への注目が集まっている理由はどこにあるのでしょうか?

 展示会のサポートサービス『展示会のプロ』を運営する株式会社アングルクリエイトの福間 美莉さんに、展覧会が注目される理由や出展企業が抱える課題などについてお聞きしました。

展示会に注目が集まる理由は商談化への確度

——現在、企業のプロモーション手法として展示会が注目されている理由を教えてください。

 展示会がサービス(またはプロダクト)を提供する出展者にとっても、購入する来場者にとっても、メリットが多いものだから、ということが大きいと感じています。

 出展者側のメリットとしては、

●オフラインマーケティングでありながらターゲティングが可能

●温度の高いターゲットにリーチできる

●直接的な売り上げにつなげやすい

 この3つがあります。

 通常、テレビCMや街頭広告など、認知を広めることは可能なものの、ユーザー側からのアクションがなければ出稿側が顧客獲得のアクションを起こすことが難しいのがオフラインマーケティングです。

 一方、展示会はSaaSサービス系、フード系など、テーマを限定して開催されます。来場者も開催テーマに関連のある業界の方であることがほとんどです。展示会はオフラインでありながら、オンラインマーケティングのターゲティング広告のように自分たちのサービスに親和性の高い方々にリーチできることが、大きな特徴でありメリットですね。

 2つ目の「ターゲットの温度の高さ」についてですが、これは展示会の開催日時が関係しています。展示会は基本的に、平日の昼間に開催されています。多くの方は仕事中の時間帯です。展示会のテーマや出展内容に対してそれなりに温度が高くないと、わざわざ自分の業務の時間を割いて足を運ばないですよね。実際、展示会における、リードから商談化する確率は比較的高い傾向にあります。

 最後の「直接的な売り上げ」については、展示会に営業が参加できることが大きいですね。通常、企業のブランディングやプロモーションなどはマーケティング担当が行うことが多く、展示会の出展に関してもマーケティング担当が主体となって行うことは少なくありません。

 しかし、展示会は実際に現場に営業担当も出向いていることが多く、そこで接触した来場者にダイレクトに営業をかけやすいんです。多くの展示会で、来場者は社名や業種、職種が記載されたパスを携帯するため、展示会での接触後にコンタクトを取る先や決済権限者が誰なのかがわかりやすい、というのも売り上げにつながりやすい要因としてあります。

オンラインマーケティングの弱点を克服 ——来場者についてはどのようなメリットがありますか?

 来場者の場合は、「オフラインだからこそ」のメリットがありますね。

● 実際に体感しての検討が可能

●取引に対する安心感がある

という2つが大きなメリットとしてあると考えています。

 展示会は目の前に製品が並んでおり、実際にシステムを触るなどしながら、自分たちがどのサービスを導入するかを検討できます。また、1つのブースにいる時間も、企業に出向いて行われるプレゼンや商談よりも比較的短時間です。温度感が高いながらも、ライトに複数社の営業担当の説明を受けられることもメリットかもしれません。

「取引に対する安心感」については、多くの方がオフライン回帰によって、対面コミュニケーションの重要性を再確認したことが大きいです。コロナ禍でオンラインでの商談も一般的に導入されるようになったものの、BtoBなど、額の大きい取引に関しては、やはり一度でも対面していることが安心材料になります。初対面がオフラインで行われるという点は、展示会の強みであると感じますね。

——展示会と親和性の高い業種などはあるのでしょうか?

 やはり先ほど話したようなBtoBサービスやプロダクトは、来場者の購入へのハードルが下がるという点で出展のメリットは大きいように感じます。実際、BtoBサービスの展示会や、そういったサービスを提供する企業の出展が増えていますね。

展示会出展にひそむ大きな課題とは ——展示会は、従来のオフラインとオンライン、それぞれの弱点を解消していると感じます。展示会でのプロモーションにデメリットはあるのでしょうか?

 デメリットはおもに出展者側に発生すると考えています。

●事前準備事項が多く、予算が増大しやすい

●展示会に関するナレッジが貯まりづらい

などのデメリットがありますね。

 予算と準備の問題に関しては、「会場への集客以外はほとんどが出展者持ち」であることが関係しています。

 展示会は、主催企業が集客し、会場内の区画を出展者に有料で貸し出します。出展者は区画内の部分に関しては、基本すべて自分たちで準備をします。カーペットを敷いたり壁をつくったりということはもちろん、ブース内を充実させる装飾やノベルティ、呼び込みスタッフなど、基本的に課金をすればするほど人の目に触れる機会も増えますが、その分予算は嵩んでいきます。

 また来場者に対して理解しやすいようにブースや当日のフローなどの細かい部分の調整も必要になることで準備が増えていくのが展示会です。

——ナレッジが貯まりづらいのはなぜでしょうか?

 オンラインマーケティングなどは短いスパンで複数回PDCAを回して準備・検証できるものも多く、比較的社内にナレッジが貯まりやすいのですが、展示会への出展頻度は多い企業で年に10数回程。複数企業が主催するさまざまな展示会への出展となることが多いです。そのため同じ条件で検証する機会が少なく、担当者へ属人化する業務が多いことが、展示会に関するナレッジが貯まりづらい原因ですね。中には、担当者が退職してしまうことによって、社内にあったナレッジがほとんどなくなってしまうという場合もあります。