もしこれが、雷ほど珍しくない頻度で生命の材料を合成しうるなら、地球全体で見た場合、稲妻以上の大きな役割を果たした可能性があるのです。

そこで今回研究者たちは、スプレー状に噴霧した水滴が合体・分裂する瞬間に生じる微小放電に着目し、そのとき発生するエネルギーがどんな化学反応を引き起こすのかを詳細に調べることにしました。

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ここに示された図は論文から引用したものです。この図は、初期地球の大気を模した環境下で、微小放電による有機分子合成を再現するためのシステムです。まず、窒素、メタン、二酸化炭素を8:1:1の割合で混合したガスが供給され、これを噴霧装置で水微小滴に変換します。水滴は噴霧時に自然と帯電し、大きな滴が正、小さな滴が負の電荷を帯び、互いに近づくことで微小な放電(マイクロライトニング)が発生します。同時に、ステンレス製容器から加熱によって気化したアンモニアも供給され、これらのガスと水滴が反応室内で混合されることで、雷放電を用いたミラー=ユーレイ実験と同様の条件下が再現されます。さらに、音響による「アコースティック・リフテーション装置」を用い、単独の水滴を宙に浮かせその挙動と放電を高感度カメラや光センサーで検出するユニークな手法も採用されました。生成された有機分子はOrbitrap質量分析計にリアルタイムで導入され、短時間(数十~200マイクロ秒)で反応が完了する様子が確認されました。これにより、滝や波、霧といった日常的な水滴の衝突が、稲妻のような大規模な放電に頼らずとも、地球全体で有機分子生成に寄与していた可能性が示され、生命の起源に新たな視点を提供する革新的な装置であることが明らかになりました。/Credit:Yifan Meng et al . Science Advances (2025)

調査に当たってはまず、音響の力で浮かせた単独の水滴を観察するというユニークな手法を用いました。