全国農業協同組合中央会(JA全中)が多額の費用を投入して開発した業務管理システム「新Compass-JAシステム」。2024年1月から運用を開始したが、継続利用した場合に数年間で200億円規模の追加費用が発生することが判明し、運用を停止することを決めたことが注目されている。JA全中の収入の多くは農家から徴収する会費であり、システム投資のまずさで多額の資金を無駄にしたという批判も根強い。停止の理由についてBusiness JournalはJA全中に取材の申し入れをしたが、期日までに回答は得られなかった。背景には何があるのか。また、ここまで多額の追加費用が発生したり、多額の費用をかけて開発したシステムが運用停止に追い込まれる原因としては、どのようなことが考えられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
JAグループの総合指導機関であるJA全中は、JA経営基盤の確立・強化のための情報システム対応として「新Compass-JAシステム」を開発。JAグループの総合事業の強みを生かすための業務・システムの統一とデータ連携基盤の整備を進めてきた。全国の農協が活用を予定し、JA全中は新システムへの円滑な移行を重要な事業計画の一つとして定めていたが、運用費などが当初見込みより大幅に増えることが判明。JA全中の山野徹会長は2月の定例記者会見で使用停止を決定したと発表。それに伴い2025年度収支予算が約36億円の赤字となる見通しとなった。
追加費用として200億円前後、発生する理由は何か。新システムの使用停止に伴い、業務にどのような影響が出ることが想定されるのか。JA全中から回答を入手次第、追記する。
茨城の農協のシステムを全国展開
ここまで多額の追加費用が発生することは、よくあることなのか。また、こうしたケースが生じる原因としては、どのようなことが考えられるのか。データアナリストで鶴見教育工学研究所の田中健太氏はいう。
「あまりない事例ではないでしょうか。原因としては、最初の要件定義フェーズで、しっかりと要件の洗い出しや整理を行えていなかった、要は失敗してしまっていたという可能性が考えられます」
多額の費用をかけて開発したシステムの運用を停止するというケースが生じる理由としては、どのようなことが考えられるのか。
「公表されている情報を見る限り、今回の新システムは茨城県の農協で使われていたシステムをベースとして、全国で使用するように開発されたもので、開発を担ったのは茨城県の農協の電算センターです。農協の細かい業務内容・手順や生産している作物などは地域ごとに異なるため、茨城県だけであれば問題なく稼働していたものの、全国規模で利用するのは難しかったのかもしれません。つまり、そもそも全国展開するには無理があるシステムであった可能性も考えられます。また、開発元の電算センターは全国規模で使用されるような大規模なシステムの開発のノウハウを十分に持っていなかったのかもしれません」(田中氏)
JA全中の24年3月末時点における純資産は約221億円。新システムで発生が見込まれる追加費用とほぼ同額だが、経営に影響がおよぶ可能性も指摘されている。