クモの糸は、驚くべき強度と柔軟性を持つことで知られています。

細い糸にもかかわらず、鋼鉄にも匹敵する強さを持ち、ナイロンを超える伸縮性を発揮する。

そんな夢のような素材が、もし人工的に作れるようになれば、未来の材料革命が起こるかもしれません。

しかし、クモの糸をそのまま再現することは、科学者にとって長年の課題でした。

どんなに優れた技術を用いても、天然のクモ糸ほどの強さやしなやかさを実現することは難しかったのです。

そんな中、米ノースウェスタン大学とワシントン大学の研究者たちが驚くべき発見をしました。

クモの糸は引き伸ばされることでさらに強くなるというのです。

この発見により、人工クモ糸の実用化が現実味を帯びてきました。

この研究は2025年3月に学術誌「Science Advances」に掲載されています。

目次

  • クモの糸はなぜ注目されるのか?
  • 引き伸ばすと強くなる!?最新研究が明らかにした驚きのメカニズム

クモの糸はなぜ注目されるのか?

現在、人類が利用している最も強度の高い繊維素材のひとつに「アラミド繊維(aramid fiber)」があります。

これは、防弾チョッキや航空宇宙分野で活用される高性能な合成繊維であり、驚異的な耐久性と引張強度を誇ります。

例えば、アラミド繊維の代表格である「ケブラー(Kevlar)」は、鋼鉄の5倍の強度を持ちながらも非常に軽量です。

ケプラーの構造
ケプラーの構造 / Credit:Wikimedia Commons

しかし、アラミド繊維にはいくつかの欠点があります

高い剛性を持つ一方で、柔軟性には限界があります。

例えば、防弾チョッキや航空機の構造材など、衝撃耐性や剛性が求められる分野には適していますが、極端に曲げたりねじったりする用途には向いていません。

そのため、衣類や医療用の縫合糸のような、しなやかさが求められる用途では十分に機能しません。

Credit:canva