妊娠中に母体の免疫系が活性化すると、サイトカインと呼ばれる炎症性因子が産生され、それが胎盤を通じて胎児の中に侵入し、神経発達に異常が起こるのです。
そのせいで、将来的に子供が「自閉症スペクトラム症(ASD)」「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」「統合失調症」などの神経発達障害を発症しやすくなることが示されています。
では、MIAと幼児期健忘との関連性はどうやって調べたらよいのでしょうか?
チームは、ヒトと同様にMIAや幼児期健忘を経験することが分かっているマウスを実験台にしました。
母体免疫活性化によって「幼児期健忘」が防がれた!
今回の実験では、妊娠中の母親マウスに対し、人工的な炎症を与えることでMIAを誘発させました。
(実際に細菌やウイルス感染させるのは何かと問題があるため、感染したときと同じ炎症を人工的に与えている)
これによって生まれたマウスの子供は、他の健常なマウスと違って、ASDに見られる社会的行動障害を示しました。
社会的行動障害とは、仲間とのコミュニケーション欠陥、周囲への興味や活動レベルの低下、行動の繰り返しや固執などを特徴とする発達障害です。

その後、このマウスと健常なマウスを対象に、幼年期に電気ショックを与えてトラウマ記憶を植え付け、大人になるまで育てました。
するとMIAの母親から生まれたマウスからは、大人になっても幼年期の恐怖体験を覚えている行動証拠が得られたのです。
反対に、健常なマウスたちは幼年期のトラウマ体験を忘れている傾向が強く見られました。
これはMIAによる神経発達の異常が幼年期健忘を防ぎ、初期の記憶の扉を開けたままにしていることを示しています。
また調査の結果、幼児期健忘の発症を防ぐ因子は「インターロイキン-17(IL-17)」というサイトカインであることが特定されました。