一方、人間が「怖い話」を聞いたときには、心拍数が上がったり、身体が強張ったり、意識的に「怖い」と感じたりといった生理的・心理的な変化(情動)が起こります。
これは単なる言語のやり取りにとどまらず、本人しか体験できない主観的感覚(クオリア)を含んでいます。ポジティブな内容を聞いた場合も同様に、脳内の報酬系の活性化や気分の高揚感など、身体的・精神的な変化が伴うことが知られています。
人間の発話内容や受け答えは、脳の認知プロセスと情動反応が複雑に絡み合いながら生成されます。
怖い話を聞いて恐怖を感じたときは、脳内で不安を引き起こす神経伝達物質(例:ノルアドレナリン、コルチゾールなど)の分泌が増え、認知的バイアス(悲観的な見方や注意が特定の方向へ集中するなど)を誘発します。
その結果、答え方や言葉の選択が変化し、より不安を表す表現が増えたり、声色が震えたりする場合もあります。
脳科学的にみれば、ネズミから人間まで恐怖や不安を司る回路が種を超えて脳内に存在しており、そこで起こる神経活動が恐怖や不安の根拠となっています。
しかしAIの情報処理にはそのような根拠となる神経回路が存在していません。
人間は、恐怖話→神経伝達物質・情動・認知バイアス→言動の変化というプロセスを経て反応し
AIは、恐怖話→統計的に関連する単語・文脈に引き寄せられる→出力の変化というプロセスを経て反応します
多くの研究者は、ここに人間の情動とは異なる“概念的な断絶”があると考えています。
ただ人間もAI自身も、自身の中間過程を正確に認識できないのは同じです。
そのためSF作品のように入力と出力の対応が人間と同じならば、AIにも感情があると判断するひとも出てくるかもしれません。
生物に備わる特異な神経回路の反応を感情の根拠とするか、人間との反応の類似性が感情の根拠とするのか……AIの心理的反応は今後多くの議論を呼ぶでしょう。