今回は、アメリカの調停が入っている最中の時期であり、ロシア軍がキーウにまで攻め込むことはなさそうである。それにしてもクルスク攻防戦におけるロシアの圧勝は、調停に向けた戦況の確定で、決定的な意味を持つことになった。
ウクライナ軍は、クルスク侵攻から、東部戦線の戦況を著しく悪化させた。今やロシア軍は、ドネツク、ルハンスク、ザポリージャ、ヘルソンの行政区を、ほぼ占領下に置いている。もし残存地域を非武装中立地帯に設定できれば、あとは現状の固定と、ウクライナのNATO非加盟(中立化)の制度的取り決めがなされれば、戦場で前進し続けているロシアであっても、停戦に向けた交渉に合理性を見出せる可能性が出てくるだろう。
もともと2023年末までに、ロシア・ウクライナ戦争は、膠着状態と言える段階に到達していた。しかし「ウクライナは勝たなければならない」の観念にかられたゼレンスキー大統領は、ロシア領攻撃を通じた戦局の打開という夢にとらわれるようになった。
そこで自身と対立しがちとなったザルジニー総司令官を罷免し、戦局の膠着を打開するためのクルスク侵攻に踏み切った。結果として、確かに膠着状態の解消を果たしたが、それはウクライナに全く不利な形での解消であった。
政治家の行動は、心情的な事情ではなく、客観的な結果にてらして、評価されなければならない。もちろん評論家層の言説も、やはり心情的な事情ではなく、客観的な結果にてらして、評価されなければならない。
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