本記事は、2018年の記事の再掲です
他人の顔がドラゴンのように見える――そんな症状を訴えた女性がいた。精神科医にして作家の故オリバー・サックス氏らが高名な医学誌「The Lancet」に報告した奇妙な病気「Prosopometamorphopsia」とは? 科学メディア「Science Alert」からお伝えする。
■人の顔がドラゴンに見える患者
2011年7月、オランダのデン・ハーグにある精神科の外来に一人の女性が訪れた。当時52歳だったこの女性患者は、精神科医に驚くべき話をし始めた。彼女は長い間、人間の顔がドラゴンか爬虫類のように変化してしまうという症状に悩み続けているのだという。
女性によると、見始めてしばらくは実際の顔が見えるのだという。だが、数分もすると顔色が黒ずみ、顔全体が長くなり、耳は尖り、鼻が突き出て、爬虫類の皮膚に変わり、巨大な目が黄色や緑や青や赤に輝くのだという。
この患者がドラゴンを見たのは他人の顔を見ているときだけではなかった。壁やコンセント、コンピュータのモニター、テレビなどにもドラゴンの顔が浮かび上がり、夜には暗闇を漂うたくさんのドラゴンの顔を見ていたという。
この症状は思春期の初期からひどくなり始め、彼女は孤立しがちでうつ状態になり、長年アルコール依存症に苦しんだという。学校を卒業した後は結婚し、娘を産み育てながら働いていたが、この症状のせいでしばしばコミュニケーションに問題が起き、ついに医師に助けを求めたのである。
MRI、脳波、血液、神経など様々な検査を行ったが、彼女の身体には特別な異常は見つからず、脳にも特に異変は起きていなかった。医師たちは奇妙な症状の原因を突き止めることができず、幻覚や幻視、幻聴といった症状の専門家であり高名な作家でもあるアメリカの医師オリバー・サックス氏に相談することにした。